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「結婚、育児 無理と決めないで」/障害者の子育て描く/愛本みずほさん(漫画家)に聞く/知らないから怖い 知って偏見なくす


「結婚、育児 無理と決めないで」/障害者の子育て描く/愛本みずほさん(漫画家)に聞く/知らないから怖い 知って偏見なくす 「だいすき!!ゆずの子育て日記」の作者、愛本みずほさん
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 北海道にある知的障害者のグループホームで入所者が不妊処置を受けていた問題は、障害者の結婚や子育てを考えるきっかけとなった。知的障害のある女性が母親となり、成長する姿を描いた漫画「だいすき!!ゆずの子育て日記」の作者愛本みずほさん(58)は、作品のために福祉現場への取材を繰り返したという。「無理だと決め付けないで」と考える愛本さんに話を聞いた。

 ―描いたきっかけは。
 「編集者から提案されたのですが、ハードルが高いように思い、最初は断りました。その後、家族に知的障害者がいる友人に相談すると『障害がある人をかわいいと思えたら、描けるよ』と言われ、考え直しました。なぜ結婚や子育てが無理と言われたり、他の人に人生を決められたりしなければならないのだろうかと疑問や興味がわいてきました」
 ―2005年に連載を始める前に1年半ほど取材したそうですね。
 「長崎県にある社会福祉法人『南高愛隣会』は、障害者のための結婚推進室など、男女交際や子育てをサポートする仕組みを整えていました。想像していたトラブルや問題もなく、うまく行っているように思えました。その後も、試行錯誤しながら障害者を支援している取材先をいくつも訪ねましたが、障害のない人の子育てと変わらないのではないかという思いは変わりませんでした。もちろん二つのことを同時にできないとか、融通が利かないということはあります。しかし、手伝ってもらう内容や度合いが違うだけで、子育てができないとは全く思いません。『結婚してやっていけるのか』『親としての自覚が持てるのか』と言う人もいますが、障害のない人だって、そこまでの覚悟で結婚、出産している人はどれほどいるのでしょうか」
 ―描く際に気を付けた点は。
 「とにかく明るく描くことです。障害を扱うと暗くなりがちですが、説教くさい漫画は読みたくないじゃないですか。家族に障害者がいるからって、いつも暗いわけではないし、笑いもあります。長崎で出会ったご夫婦の奥さんが本当に明るく、かわいらしい方で。『こんな人ならいいな』と主人公のキャラクターを作る際に参考にしました」
 ―訴えたかったことは。
 「『知らないから怖いんだ』ということですかね。知ってしまえば『あっ、そうなんだ』と思うことがたくさんあるんです。障害者のことを知ってもらえれば、偏見もなくなっていくのではないでしょうか。グラデーションのようにいろんな度合いがあり、障害の有無の境目も曖昧ですから」
 ―テレビドラマ化もされました。どんな感想が寄せられましたか。
 「子育てしている知的障害者の方からは、育児の大変さや主人公に共感して『私も頑張りたい』という手紙やメールが多かったです。一方、両親に知的障害がある人からは『夢物語だ』と非難するメールも来ました。障害のないお母さんからもたくさん意見をいただきました。『孤独を感じながら子育てに悩んでいる。支援者がいる主人公がうらやましい』という予想もしなかった感想が寄せられ、ハッとしました」
 ―どんな環境、サポートが必要でしょうか。
 「子育てをするお母さんだけでなく、家族ぐるみで支援を受けられるシステムがあると良いと思いました。障害の有無にかかわらずとも、少しでもつらい思いをしている人に手を差し伸べることが普通にできる世の中になってほしいですね」

阻む要因は理解不足

 「障害者に子育ては無理」と言わせているのは、社会全体の障害への理解不足や環境整備の遅れが要因になっていると感じた。障害の有無にかかわらず、誰かの手を借りなければ子育ては大変だ。どうしたら困難を乗り越えられるか。助けを必要としている人に寄り添ってくれる社会になってほしいと願う。(共同通信記者 篠崎真希)

読者にも多くの発見

 作品を担当した講談社の編集者岩間秀和さんの話 自分の子どもが生まれた時に、他の人はどうしているんだろうと気になり、調べてみると、出産、育児をしている知的障害者がいることを知りました。その姿をビデオで見て「本当にできるんだ」と。あまり知られていないことだから、漫画にすれば読者にとっても多くの発見があるんじゃないかと考えました。デリケートなテーマですから「寝た子を起こすな」と言われたこともあります。障害者は人の手を借りないと生活できないというネガティブな考え方もありますが、福祉現場を取材すると、割と楽しく支援している人もいることに気付かされました。読者も自分の身に引き寄せて興味を持ってくれたようです。

漫画「だいすき!!ゆずの子育て日記」(ⓒ愛本みずほ/講談社)

 あいもと・みずほ 大阪府出身、1988年「別冊フレンド」(講談社)でデビュー。白血病と闘い骨髄移植啓発運動に命を懸けた主人公を描いた「由希子―輝くいのち―」などを執筆。現在は漫画アプリ「Palcy」で「愛しい嘘 優しい闇」を連載している。

 「だいすき!!ゆずの子育て日記」 軽度の知的障害がある主人公の福原柚子(ゆず)は、偏見を乗り越え、周囲の支援を受けながら出産、母親として成長していく。2005~12年に漫画雑誌「BE・LOVE」で連載され、08年にテレビドラマ化された。