スイスで18日に開かれた国連人権理事会に出席し、沖縄の基地問題について訴えた玉城デニー知事に対し、日本政府在ジュネーブ国際機関政府代表部が反論する場面があった。政府側は沖縄の米軍駐留について「地政学的な理由と日本の安全保障に基づいており、差別的な意図に基づくものではない」と主張。県民投票について「重く受けとめ、日米間で合意した影響緩和を速やかに実現する」、埋め立て強行については「日本は法治国家で、知事の埋め立て許可を受け、法に従って辺野古埋立地の建設が行われている」などと述べた。発言者は政府代表部の塩田崇弘公使参事官。それぞれの反論を検証する。
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「差別意図ない」 基地集中、全国が黙認
日本政府は反論で沖縄の米軍駐留は「差別的な意図に基づくものではない」と主張した。だが国土面積の0.6%しかない沖縄に、在日米軍専用施設の約7割が集中する。戦後すぐに土地を強制接収した米軍が引き起こしてきた事件、事故で多くの県民が被害に遭った。県は基地被害の抜本的解決を求めているが、政府が進める主な基地負担軽減策は県内移設が前提となり、県民が望む形ではない。
政府は差別の意図はないとするが、県は、国全体が沖縄への基地集中を黙認する「構造的差別」の状態にあると指摘する。県は日本復帰50年の節目に当たる昨年に政府に提出した「建議書」で「構造的、差別的ともいわれている沖縄の基地問題の早期の解決を図ること」を要望した。
米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古への新基地建設計画は、県内移設の代表的事例だ。
新基地建設は県知事選や19年の県民投票でも反対の意思が示された。しかし政府は民意を一顧だにせずに新基地建設を進め、司法も政府の手法を追認するかのような判決を出している。他都道府県でも沖縄の民意に呼応する声は多くはなく、国全体で沖縄への基地集中を黙認する構造的差別状態にあると言える。
(梅田正覚)
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「日本は法治国家」 法解釈変更し埋め立て
日本政府代表部は名護市辺野古の新基地建設について「日本は法治国家で、知事の埋め立て許可を受けた後、法に従って建設が行われている」と主張した。
だが、実際は政府が岩礁破砕許可などを巡って法律の解釈を変えるなど法治主義を揺るがしてまで進めてきた。
沖縄防衛局は2017年、以前に許可を得ていた岩礁破砕許可が期限を迎える際、再申請して許可を得ることなしに工事を続けた。名護漁協の漁業権放棄決議で漁業権が存在しなくなったため、許可を得る必要はないと主張した。
一方、那覇空港の第2滑走路建設では、沖縄総合事務局が地元漁協が漁業権放棄を決議して以降も漁業権は存在するとの認識で、県に岩礁破砕許可を申請した。
日本政府が新基地建設の根拠とするのは、2013年に当時の仲井真弘多知事が埋め立てを承認したことだ。そもそも仲井真氏による承認は知事選公約に反するとして批判を浴びた。承認時に順守を約束した「留意事項」についても防衛局による違反が指摘されてきた。
護岸工事に使う石材を持ち込む方法も、当初は陸上運搬を想定していたが、県に承認を得ることなく方針を変更して海上運搬を始めた。
(明真南斗)
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「県民投票重く受け止め」 協議なく、工事継続
玉城知事は、辺野古の埋め立て反対が7割を占めた2019年の県民投票結果に触れ、「民主主義の手続きにより、明確に埋め立て反対という民意が示された」にもかかわらず新基地建設が強行されていると訴えた。
日本政府は反論で、政府として「結果を重く受け止めている」と述べた。従来の政府姿勢を改めて説明した形にとどまる。
当時の菅義偉官房長官は県民投票告示日の会見で、結果に関わらず移設工事を進める考えを示した。実際、政府は工事を継続しており、県民投票結果を施策に反映した形跡は見当たらない。
県民投票の結果を政府に伝達した際に玉城知事は、SACO(日米特別行動委員会)合意の進捗(しんちょく)確認や検証をテーマに日米両政府と県が協議する「SACWO(サコワ)」(SACO With Okinawa)の開催を提案したが、実現していない。日本政府は「ゼロ回答」なのが実態だ。
(知念征尚)