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<沖縄空手の歴史>52/宮城篤正/エピローグ 沖縄空手に新たな波(下)/流派研究事業で解説書刊行/型や歴史、世界へ発信


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊


当初「空手振興課」では沖縄空手が目指すべき将来像を描く目的で策定委員会と三つの専門部会が設置された。すなわち、沖縄空手振興ビジョン策定委員会の委員17人を任命、さらに三つの専門部会(1)保存・継承検討部会(11人)、(2)普及・啓発検討部会(11人)、(3)振興・発展検討部会(14人)を設けて、各々に次世代空手家を参加させて多角的に意見や討論を各検討部会で重ねた結果を最終的には策定委員会において「沖縄空手振興ビジョン」を策定した。
なお、ビジョンの検討策定の途中には中部、那覇、石垣、宮古、北部の各エリアを巡回してシンポジウムを開催し、広く県民へアピールして理解を深めるよう工夫をして実施されたことを付言しておく。
次に画期的な企画のひとつに沖縄空手流派研究事業がある。その大略を紹介しておこう。まず、本事業を始める前に監修委員会(5人構成)を置き、その次に各流派ごとの検討委員会(部会)に各々7人前後の委員を選任して、各流派の特徴と理念、あゆみ、身体操作、型と分解等々について調査・研究の上に会議で十分議論を重ね、最終的には監修委員会の承認を経て解説書が刊行された。
また解説書は日本語のほかに英語、フランス語、スペイン語の3カ国語に翻訳される。そのことで海外にも広く沖縄空手の流派の歴史や型(形)について正しく理解を深め、さらなる普及・発展に役立てる目的の事業である。
その第1冊は『上地流・解説書』(2018年3月発行)、第2冊は『剛柔流・解説書』(2019年3月発行)、第3冊は『首里手、泊手・解説書』(2021年2月発行)、第4冊は『古武術・解説書』(2022年3月発行)がある。
次に「沖縄空手アカデミー」について少しだけ触れておく。確か2018(平成30)年10月3日の報告者・仲村顕氏の「空手座談会について」が第1回の報告会ではなかったかと思う。彼は「唐手座談会校合資料」や「近代沖縄空手年表」の配布資料を準備して詳細な比較説明が行われた。
県庁の「空手振興課」初代課長の山川哲男氏は「ユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産登録を目指す中、空手の価値を県民に再認識してもらうためにも、学間的な視点や歴史を大事にし、活発に意見交換したい」とインタビューで語っている(沖縄タイムス、2018年10月4日付)。以後、同企画は毎年度全6回程度開催され、新発見の資料や豊かな知見を持つ発表者によって研究成果の蓄積が図られている。
現在、沖縄空手のユネスコ無形文化遺産登録に向けた多方面からの調査研究活動が展開されている。広く県民の理解と支援をお願いする次第である。
翁長雄志知事は第1回沖縄空手国際大会実行委員会会長を務め、「空手振興課」が事務局になって「第1回沖縄空手国際大会」(会期2018年8月1日~8日)を沖縄県立武道館と沖縄空手会館を会場に開催し、大成功をおさめた。
ところが不運にも大会最終日に病気のために死去する。そして県知事選挙によってそのバトンを引き継いだ玉城デニー知事はコロナ禍の中にあって「第2回沖縄空手世界大会」(注・15歳以上)と「第1回沖縄空手少年少女世界大会」実行委員会会長を務めて「沖縄空手世界大会2022」(会期2022年8月1日~8日、会場・県立武道館、冲縄空手会館)を開催した。この年は沖縄の本土復帰50周年という記念すべき年を迎えており、世界の国や地域、そして国内の空手愛好家が多くエントリーして開催された。
この辺で本稿の結びを手短に書く。
2016(年成28)年8月に南米ブラジルのリオデジャネイロで開催された国際オリンピック委員会(IOC)総会において、2020東京五輪で沖縄を発祥の地とする「空手」を正式種目に採用することが決定された。このビッグニュースは私たち沖縄空手家の長年の夢が現実になった瞬間であり、マスメディアでも大々的に報道された。ところが東京五輪開催の年は世界中の国や地域で新型コロナウイルス蔓延(まんえん)により、1年間の延期を余儀なくされた。それでもめげずに個人形の喜友名諒選手は厳しい練習を1日たりとも中断せず、2020東京五輸の本番では予選28点台を記録、決勝では28・72点の高得点を出し、堂々の金メダルに輝いた。特に印象深かったのは優勝の瞬間、彼は会場中央に正座して一礼したことだ。その姿はまさに空手道精神を象徴するものであった。
今日の沖縄空手界に打ち寄せる新たな波は前途洋々として、実に明るく希望に燃えるものがある。最後に一言、長い間、私の「沖縄空手の歴史」とお付き合いくださった読者の皆さまに心から厚くお礼申し上げます。イッペー、ニフェーデービタン!!
(元県立芸術大学学長、沖縄空手師範)