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新基地巡る最高裁判決 決め手なく禁じ手使う国 菅原文子さんコラム <美と宝の島を愛し> 


新基地巡る最高裁判決 決め手なく禁じ手使う国 菅原文子さんコラム <美と宝の島を愛し> 
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊


 異様な暑さが日本中で続き、9月に入っても涼しくならなかったが、最高裁小法廷の沖縄県敗訴の判決文を読み、寒気が走った。国と地方は上下、主従関係ではないと「地方分権一括法」で2000年に明確に定めたにもかかわらず、短い判決文中に「法定受託事務」という言葉が、駄目押しをするように5回も出てくる。

 「法定受託事務」は、国が本来行うべき事務を都道府県庁に委託する手続きだそうだ。この「法定受託事務」という制度は、地方分権を装う衣の下のよろい、言い方を変えれば「形式」で、国の都合次第で自治体は黙ってハンコを押せばよろしい、という前近代的旧制度のままの霞が関用語なのではないか。判決文中に執拗(しつよう)に使われるこの法律用語が、県に対する脅し文句に見えてきた。判決文の被上告人(国交省)の指定代理人のプロフィルを見ると、法務省、農水省など国家権力挙げて沖縄県の頭上にハンマーを打ち下ろしている姿が見えてくる。

 判決文が引用する法律をネットで拾い、首っ引きで判決文を読み返した。何じゃコレとあきれたのは、一般の国民が行政庁に不服を申し立てる「行政不服審査法」を根拠に論を展開していることだ。このような禁じ手を使わないと、実は国側には決め手がなかった、と深読みした。日本国内で未経験の軟弱地盤補強工事が成功するか、未知数なまま突入している沖縄防衛局の工事が、実は泥を膨大な血税で埋め立てるに等しいことへの世論の反発を警戒もしたのだろう。軟弱地盤という肝心の論点を避けた裏面もうかがえる。

 工事当事者の沖縄防衛局が隠れて見えないのは、表に立てば自衛隊への国民の好感度が下がり、憲法改正の国民投票に影響するからだろう。沖縄県敗訴が出されたとたんに、沖縄防衛局は工事入札の公告を出した。建設業者が中央の大手ゼネコンのどこか、下請けがどこになるかはこれからの報道に注目だ。

 普天間基地であろうと辺野古新基地であろうと、沖縄県から米軍基地が減らない限り、沖縄県民の危険度に変わりはない。衆院議員の国場幸之助氏が、自民党本部で一日も早い普天間飛行場の危険性除去のため「県で速やかに承認手続きを取ってほしい」と発言したが、県民全ての安全と平穏な生活を願うなら、この発言は出てこない。宜野湾市長も同様なコメントを出していたが、県内の融和と共存共栄を損ない、断絶を招くこの国の米国偏重の政治が悲しい。

 県内農漁業、自然景観、観光資源、特有の希少生物という県民にとってはもちろん、国民全てにとっての貴重な宝を米軍に差し出し、自衛隊員の命を米軍の意向に差し出すこの国の政治の愚かさにカツ!を入れるのは、選挙だ。来年の県議会選挙と次の県知事選挙、あるいは国政選挙だ。残る一発の弾である一票をどちらに投じるか、平和という平穏な暮らしの保障を求めるなら、どちらに投じるかは自明だろう。

(辺野古基金共同代表)