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<表層深層> 影落とす「政治とカネ」 釈明、謝罪もむなしく   


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 新閣僚ら4人に、親族への事務所費支払いを巡る問題が判明した。岸田文雄首相の内閣改造が政権浮揚につながらなかったばかりか国民の不信感を強めかねない状況に、政権内で警戒感が広がる。「政治とカネ」の問題が浮上しても、通り一遍の釈明や謝罪がされるだけで、識者からは政治資金の透明化といった抜本策が打ち出されない現状を批判する声も上がる。

2週間
 「相場から離れていることはないと受け止めている」。26日、加藤鮎子こども政策担当相は記者会見で、母親に払っていた賃料15万円は家賃相場の最低ラインであり、問題ない額だと主張した。
 就任まだ2週間足らず。15日の会見でも、自身が代表を務める資金管理団体にパーティー券を巡る違法な資金受領があったとの一部報道を受け「寄付として処理すべきものをパーティー券収入と記載してしまった」と釈明に追われたばかりだ。
 首相は13日に内閣改造・自民党役員人事、15日に副大臣・政務官人事を終え、新体制をスタートさせた。既にこの間、国政選挙に関し、国の事業を請け負う業者による寄付禁止への抵触が疑われる事案も発覚。西村康稔経済産業相、高市早苗経済安全保障担当相、萩生田光一政調会長、小渕優子選対委員長と人事の中核となる名前が並ぶ。
 特に加藤氏は衆院当選3回の若手、歴代最多に並ぶ5人の女性閣僚の一人で「刷新感を印象付ける目玉人事」(首相周辺)。加藤氏が「政治とカネ」問題でつまずけば、政権全体に影響が及びかねない。

悪夢
 そもそも首相は内閣支持率低迷に苦しんでおり、人事をてこに政権浮揚を図る思惑もあった。だが、内閣改造後の報道各社の世論調査を見れば「当てが外れた」(自民中堅)のは明らか。党内に「何のための改造だったのか」(若手)と落胆が広がる。
 政権幹部の脳裏には、昨年8月の内閣改造の後、閣僚4人が相次いで交代となった「辞任ドミノ」の悪夢が浮かぶ。当時の寺田稔総務相と秋葉賢也復興相は、妻など身内に事務所の賃料を支払っていた「政治とカネ」問題が発端で、加藤氏と重なる。官邸筋は「加藤氏の問題が拡大しないか注視しないといけない」と身を引き締めた。

緊張関係
 昨年の寺田氏と秋葉氏の事例では当初、両氏とも適切な家賃の支払いだったとし、首相も「説明を尽くしてほしい」と静観。その後、政治資金処理などを巡る別の問題が次々と噴出し、かばいきれなくなったのが実態で、政権が政治資金の透明性を確保しようと積極的に動いた形跡はない。
 NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は「身内への支出は、違法ではなくても疑念や疑問を生じさせる。政治家は国民の多数が納得できる合理的な説明をする責任がある」と指摘。その上で、近年は「政治とカネ」の問題が浮上しても、謝罪や政治資金収支報告書の修正で済まされるケースが多いと疑問視する。
 今回の内閣改造後に判明した数々の政治資金問題でも、「問題に当たるとは思わなかった」といった釈明が目立つ。三木理事長は「政治資金規正法の趣旨は政治団体の活動を国民の不断の監視と批判の下に置くことにある。政治家と国民の間には健全な緊張関係が求められる」と話した。