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円安で値上げ再加速も デフレ経済阻止正念場   


円安で値上げ再加速も デフレ経済阻止正念場    輸入小麦の政府売り渡し価格推移
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 家計を圧迫している食品値上げは、1ドル=150円台に迫る円安が懸念材料だ。小麦など幅広く使われる原材料の価格に下落傾向がみられ、値上げの波は一時の猛烈な勢いを考えると一服感もある。円安の進行で海外から輸入する費用がかさみ、値上げが再加速する恐れがある。日銀が金融緩和策の修正を進めた場合は、住宅ローン金利の上昇などを招く可能性もある。 (1面に関連)

峠越えたか
 調査会社の帝国データバンクによると、8~11月は4カ月連続で値上げの食品数が前年同月を下回る見込みだ。調査担当者は「食品値上げの勢いは峠を越えつつある」と話す。
 パンや麺など用途が広い輸入小麦の価格は、3年ぶりに値下げに転じる。小麦は国が輸入を一元的に管理し、製粉会社に売り渡しており、2023年10月~24年3月の売り渡し平均価格は前期(23年4~9月)と比べ、11・1%下がった。ウクライナ危機で拍車がかかった国際相場の高騰が、落ち着いてきたことが背景にある。
 だが食品を含めた輸入品全般の価格押し上げ要因である円安は、歯止めがかかっていない。金利を極めて低い水準に抑える大規模な金融緩和策を続ける日銀に対し、米連邦準備制度理事会(FRB)は物価高を抑えようと利上げを進めてきた。日米の金利差拡大が意識され運用に有利なドルを買う動きが続いている。

買い控え
 度重なる値上げに賃金の上昇は追いついておらず、消費者は財布のひもを緩めない。日本チェーンストア協会の担当者は「スーパーでは、顧客1人当たりの購入点数は減少し、買い控えが続いている」と指摘する。食品メーカー側も値上げに慎重にならざるを得なくなっている面がある。イオンは9月、自社ブランド製品のうち、サラダ油やパンなど生活必需品31品目を最大15%値下げした。ローソンもおにぎりなど定番6商品の価格を最大20%引き下げた。
 こうした動きもあるが、円相場が10月以降、1ドル=148円程度で推移した場合、23年度の1年間で1世帯当たりの負担増は、前年度と比べ10万1500円になるとみずほリサーチ&テクノロジーズは試算する。人手不足でサービス価格に上昇圧力が高まっている上に「円安進行の輸入コスト増を受けやすい食料品を中心に価格が上昇するだろう」と酒井才介主席エコノミストは分析する。

住宅ローンも
 住宅ローンを抱える人は、金利の動向に気をもむようになった。日銀が7月の金融政策決定会合で、長期金利の上限を従来の0・5%から1%に引き上げたことで、長期金利が上昇。影響を受ける固定型の住宅ローン金利は、三菱UFJ銀行など国内大手5行が9月から、主力の固定型10年の最優遇金利を8月の金利より引き上げた。変動型は短期金利が影響するため据え置かれた。
 三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジストは日銀の上限引き上げで「長期金利が上昇しやすい環境にあるだけに、固定金利も上がりやすい」と指摘する。
 政府は10月中に経済対策を取りまとめる。「物価高に苦しむ国民に対し、成長の成果を適切に還元する」(岸田文雄首相)だけでなく、柱の一つとする持続的な賃上げを通じ、デフレ経済への逆戻りを阻止できるかどうか正念場を迎えている。