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「老い」テーマに漫画続々/シニア向け「読み応え」追求/「ビッグコミックスフロントライン」 小学館が新レーベル


「老い」テーマに漫画続々/シニア向け「読み応え」追求/「ビッグコミックスフロントライン」 小学館が新レーベル 新レーベル「ビッグコミックスフロントライン」で刊行中の3冊
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 扱うテーマは介護、みとり、終活…。小学館が昨年10月に立ち上げたシニア向け漫画単行本の新レーベル「ビッグコミックスフロントライン」が徐々にラインアップを増やしている。担当者でビッグ企画室の加藤辰巳編集長は「レーベルを作ることで、老いをテーマにした作品を刊行しやすくし、読者のニーズに応えたかった」と話す。
 これまでに刊行したのは山本おさむさん著、宮部喜光さん原作の「父を焼く」、齋藤なずなさん著の「ぼっち死の館」、山本さん著の「もものこと」の3作。
 新レーベル誕生の背景にあるのは日本の漫画文化の成熟だ。子どもの読み物だった漫画を大人の鑑賞に堪える形に押し上げることに貢献した青年誌「ビッグコミック」が今年で創刊55年。こうした青年誌を購読してきた、団塊の世代を中心とした層が今やシニア世代となり、出版社が改めて照準を合わせた格好だ。
 「父を焼く」は、岩手県の実家で孤独死した父を埼玉県に住む一人息子が荼毘(だび)に付す物語。心に傷を負う父は酒に溺れ、妻に暴力を振るった。息子は逃げるように都会へ。家族に対する複雑な思いを抱いたままだったある日、父の死を知らせる電話がかかってくる。
 作中で2度、読者は問いかけられる。「悲しみや悔恨を伴わない気持ちで親と子を語れる人はどれほどいるのだろうか」
 漫画に詳しいジャーナリストの田中圭太郎さんは、山本さんの作風について「原発事故など社会的な問題を正面から取り上げ、読者の心を揺さぶってきた」と分析する。
 他方、長引く出版不況の影響で漫画誌の休刊が相次ぎ、エンターテインメント性の強い売れ線の漫画ばかりになりつつあると危惧。「人間の生きざまを描く、読み応えのある漫画がなくなってきているのではないか。山本さんに代表されるような漫画が残っていく仕組みとして新レーベルは意義がある」と指摘した。
 JR東京駅に隣接する大型書店「丸善丸の内本店」副店長の友田健吾さんも新レーベルに期待を寄せる。ビジネス街にある同店は2004年の開店当時は漫画を扱っていなかったが、その後、少しずつ漫画の棚を拡充し、今年9月には一挙に1万冊増やした。「漫画は大人が選んで買うコンテンツになった。新レーベルで棚の作品の幅が広がり、読者がさらに増えると思う」と話した。
 加藤編集長は「シニア向けの文字ものでは精神科医の和田秀樹さんの書籍がベストセラーになっている。漫画でも、良いものを作れば多くの人に届くと思う」と強調。その上で「目の肥えた読者に選ばれる漫画を、今後も作っていけたらいい」と力を込めた。

「父を焼く」より(ⓒ小学館)

新レーベル「ビッグコミックスフロントライン」で刊行中の3冊