政府が、高額献金被害の訴えが相次いだ世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の解散命令請求に踏み切る。前例と異なり教団幹部が刑事責任を問われた事件がない中、文化庁は厳しい要件をクリアするために多数の被害者の証言集めに奔走。不法行為の「組織性、悪質性、継続性」を立証する構えだ。この時期の請求には、衆院解散をにらんだ岸田文雄首相の思惑も透ける。
掘り起こし
「30年以上主張し続けてきた申し立てが、ようやくなされることになる」。30日に東京都内で開かれた全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の集会。代表世話人の山口広弁護士は政府方針を評価した。
1987年に設立された全国弁連は、霊感商法や高額献金など旧統一教会による被害に長年対応してきた。
近年は社会的関心が高いとは言えない状況だったが、昨年の安倍晋三元首相銃撃事件を契機に改めて教団による被害がクローズアップされ、解散命令を求める世論が高まった。
事件以降、全国弁連は新たな被害を掘り起こすとともに、文化庁の調査にも全面的に協力。過去の裁判資料の提供や被害者の紹介をするなど、二人三脚で当たってきた。山口弁護士は「(教団は)『著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為』を長期間にわたり繰り返してきた。宗教法人格を認められるべきではない」と強調した。
陳述書
文部科学省内でも当初、解散命令請求に向けた旧統一教会への調査に後ろ向きな意見は多かった。法令違反を理由とした過去2件の解散命令は、地下鉄サリン事件などを起こしたオウム真理教と霊視商法詐欺事件を起こした明覚寺で、いずれも刑事責任を問われたケース。旧統一教会の法的責任を認めた民事判決が22件あるとはいえ、民事的な手続きを根拠に請求したことはないからだ。
昨年11月に始まった調査は、決して順調だったわけではない。計7回の質問権行使に対し、回を重ねるごとに提出資料の分量は減少した上、500項目以上の質問に対して教団側は信教の自由などを理由に100項目以上に回答しなかった。
そこで文化庁が重視したのが被害者の証言。一人でも多くの被害者から証言を集めようと、宗務課の職員らが全国を飛び回った。ただ裁判所に提出する陳述書には実名を書く必要があり、思うようにいかなかったことも調査が長期化した要因だった。
それでも全国弁連の協力もあり、政府関係者は「『組織性、悪質性、継続性』を立証するのに必要な数は集まった」とする。
けじめ
旧統一教会の調査は昨年10月、岸田首相が関係閣僚に指示したものだ。安倍氏銃撃事件後、自民党議員と教団の密接な関係が次々と露見し、閣僚にも飛び火。内閣支持率が急落し「岸田政権の命運を左右しかねない問題」に急浮上したことが背景にある。
首相が今年9月13日の記者会見で「この問題にしっかりした結論を出すべく、最終の努力を進めている」と自ら切り出したように、積み残された「宿題」だった。
教団問題への対応は、首相の衆院解散戦略に影響しかねない。仮にあいまいにしたまま選挙戦に突入すれば、野党の攻撃材料となるのは必至。与野党では、10月20日召集の臨時国会での解散論が依然くすぶる。
自民関係者は指摘する。「衆院選前に、けじめをつけなければ解散はできない」
(共同通信)