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山遭難、地図アプリで発見 GPS活用、照会200件 16府県警と協定、迅速救助 「移動ない」在宅家族が通報 福岡の滑落 位置情報共有で命拾い 電池切れ備えて 紙の地図併用も


山遭難、地図アプリで発見 GPS活用、照会200件 16府県警と協定、迅速救助 「移動ない」在宅家族が通報 福岡の滑落 位置情報共有で命拾い 電池切れ備えて 紙の地図併用も 地図アプリ「ヤマップ」の画面。GPSで自分の現在地が表示される
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 衛星利用測位システム(GPS)を使い、自分の位置情報を他人と共有できる地図アプリの利用が登山者の間で広がっている。遭難した場合、正確な居場所が特定できるため、警察などからアプリ運用会社に昨年200件の照会があったことが分かった。救助につながった例もあり警察は「早期に発見できる」と評価。16府県警が協定を結んでいる。
 アプリは、福岡市のIT企業「ヤマップ」が開発した。ダウンロードした地図上に、GPSで自分の現在地が表示される。携帯電話の電波がつながらない場所でも、登山者は位置情報を家族などと共有できる。
 全国の警察や消防などから同社への照会件数は、2020年に46件、21年に89件、22年に200件と急増した。
 遭難した可能性がある際、家族などから連絡を受けた警察や消防は、同社に遭難者がアプリを利用しているかどうかを照会。利用している場合、同社は遭難者がいる場所の緯度、経度の位置情報を捜索隊に直接伝える。
 これまで登山者の情報は登山口の専用箱やメールで警察に提出された登山届でしか把握できず、捜索隊は遭難場所の特定に時間がかかっていた。
 アプリのダウンロード数は今年7月末時点で累計380万件。レジャー白書によると、21年の国内の登山人口は約440万人。相当数がアプリを利用している計算だ。
 警察庁統計によると22年の山岳遭難は3015件。記録が残る1961年以降最多を更新している。岩手、宮城、長野、熊本など16の府県警は同社と協定を結んだ。アプリ上で正式な登山届が提出可能になり、警察が登山者の正確な情報を迅速に把握することができるようになった。宮城県警の原幸太郎本部長は「早期発見、救助につながる」と評価した。
 ヤマップの千田英史PRマネジャーは「位置情報が分からないと救助に時間がかかってしまう。連携をより広げ、迅速な救助にアプリを活用してほしい」と話した。
 福岡市では1月、地図アプリを利用する男性が遭難。位置情報を共有していた家族からの連絡を受け、ヘリコプターで無事救助された。経緯を再現した。
 「全然移動していない。おかしいな」。1月16日の昼前、アプリ「ヤマップ」の画面で、男性の現在地を確認していた妻が異変に気が付いた。男性は同市郊外の油山(標高597メートル)に1人で登山中だった。
 妻は約1時間も現在地が変わらないことを不安に思い、息子に連絡。息子がアプリの緯度や経度を消防に伝えた。約40分後、ヘリコプターが山頂付近で滑落した男性を発見した。当時の男性の体温は34度台で首や腰など7カ所を骨折していた。救助までに時間がかかれば命の危険もあった。男性は毎週油山に通うベテラン。「まさか自分が遭難するとは考えもしなかった」と話したという。
 記者もアプリを使い、福島県の安達太良山(標高1700メートル)に登ってみた。事前にダウンロードした地図でルートを選び登山計画を作成した。時間は5分ほど。当日、出発前に「提出」ボタンを押すと手軽に登山届が提出できた。緊急連絡先に登録した母にも入山を知らせるメールが届く。
 入山から約1時間後、山頂近くでスマートフォンが圏外になっても、アプリは現在地を示し続けた。「小屋に行くなら左側へ」。分岐が続き少し迷ったが、アプリ上で他の登山者が記していたコメントを参考に無事下山した。
地図アプリ「ヤマップ」の画面。GPSで自分の現在地が表示される
 日本山岳・スポーツクライミング協会の小野寺斉専務理事の話 アプリは自分の位置を常に表示し、道迷いしやすい箇所も教えてくれる。ただ遭難防止の基本は、無理のない登山計画を立て、登山届を提出し、装備をきちんとそろえ、明るいうちに行動すること。電池切れの心配もあるため、紙の地図と併用しながら有効に使えば防げる事故も多いだろう。