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社名にこだわり信用損ね 立て直しの道、険しく ジャニーズ性加害問題


社名にこだわり信用損ね 立て直しの道、険しく ジャニーズ性加害問題 ジャニーズ事務所を巡る動き
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 男性アイドルの代名詞でもあった「ジャニーズ」の看板をジャニーズ事務所が下ろすことになった。ジャニー喜多川氏による性加害という、前代未聞の人権侵害を謝罪しても社名維持にこだわるなど経営判断を誤り、信用を損ねた。人権尊重をうたうスポンサー企業は離反し、立て直しに向けた道はなお険しい。 (1面に関連)
 「全てが後手後手に回っていた。本当に内向きだった」。ジャニーズ事務所の東山紀之社長は9月の記者会見を振り返り、そう悔恨を口にした。
 わずか1カ月前、「これまでタレントが培ったエネルギーやプライド。その表現の一つ」と「ジャニーズ」の名にこだわった東山氏の姿勢はスポンサーの反発を招いた。
 「つまり自分たちで事務所を解体して被害者に真摯(しんし)に向き合って最後まで補償し、ファンと新しい未来を切り開いていく。これが新しいビジョンです」。明るい表現とは裏腹に、東山氏が最初の経営判断でつまずいたことは否定できない。
 新会社を設立し、経営の重荷になる事業と収益が期待できる事業を別会社に切り分ける手法は、一般の企業でも再建策としてよく使われる。会社法に詳しい貝塚光啓弁護士はジャニーズ事務所の対応について「補償を行う会社が抜け殻になってはいけない。補償に関し、十分な資産や対応に当たる人材を確保することが重要だ」と指摘した。
 ただ、再建に向けた見通しは不透明で、経済界の目はなお厳しい。
 俳優の生田斗真さんを企業広告に採用する住友金属鉱山の担当者は「まだ良くなったかどうかを判断する状況にない。会見で評価できるか否かというより、どう変わっていくかを注視したい」。
 直ちに広告への起用を取りやめることはないとする同社は9月初旬、事務所側に「徹底的な調査」「十分な救済措置の実施」などを文書で要請。「人権侵害リスクを低減できる立場として、ジャニーズ事務所の人権問題の改善・是正に関与していく」と強調する。
 住友金属鉱山の担当者は「企業のリスクマネジメントよりビジネスと人権の問題としてどう捉え、影響力を行使するかを議論した」と明かした上で「個々の企業で対応しきれない面もある」とも吐露。「芸能界に問題が起きた際に対応する横断的な組織があればいい」
 芸能界の労働環境を改善する活動をしてきた日本芸能従事者協会の森崎めぐみ代表理事のもとには、テレビ局関係者らから相談が寄せられている。そこで提案するのが、芸能事務所や放送局などの企業を横断し、タレントらの相談を受ける第三者的な組織で人権侵害の救済に当たる仕組みだ。
 「ジャニーズの問題は彼らが補償の仕組みをつくればいいが芸能界は世に出ていないハラスメントも多い。今後似たようなことが起きた時に被害を訴えられる仕組みを構築すべきだ」と提言する。
 だが芸能界を挙げて対策を講じる具体的な動きはまだ見られず、内向きの雰囲気は変わらないままだ。ある芸能関係者は「今日の会見を“みそぎ”にしてスポンサーやテレビ局は戻ってくる」と見立てる。所属タレントの人気は健在で、来年以降の番組起用に向けた動きもあるとして「この状況でも出演しているだけで数字(視聴率)があるでしょ」と言い放った。
性加害問題で記者会見する(左から)井ノ原快彦氏、東山紀之社長=2日午後、東京都内のホテル