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哺乳類同士で感染拡大か 鳥インフル世界的流行 人でのパンデミックに警戒


哺乳類同士で感染拡大か 鳥インフル世界的流行 人でのパンデミックに警戒 鳥インフルエンザの現状と今後
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

2020年以降、世界的な鳥インフルエンザの流行が続いている。日本の養鶏場での感染は収まったとされるが、欧米を中心に哺乳類の集団感染の報告が相次ぐ。従来は鳥から人など哺乳類に感染する確率は低く、哺乳類同士ではほぼ感染しないと考えられてきた。だが、流行中の高病原性H5N1型ウイルスについて、フェレットの間で感染が広がったとする研究もある。人から人にうつるウイルスに変異すれば次の新型インフルのパンデミック(世界的大流行)につながりかねず、警戒感が高まっている。

キツネもネコも

フィンランド食品局は7月、毛皮用にキツネやタヌキ、ミンクなどを飼育する複数の農場でH5N1型への感染が確認されたと発表した。同27日までに86匹の陽性が報告され、感染した可能性がある動物は18万匹を超えたという。
ポーランドでは6月以降、ネコの感染が相次いだ。欧州疾病予防管理センター(ECDC)によると、7月までに検査した46匹中24匹の陽性が確認され、その一部は死んだ。餌として生の鶏肉を与えられたケースもあったが、感染との因果関係は分かっていない。
国際獣疫事務局(WOAH)によると、21年以降、H5N1型に感染した哺乳類は北米や欧州を中心に10カ国で確認された。日本でも北海道でキツネの死骸や衰弱したタヌキからウイルスが検出されている。

懸念を裏付け

このキツネを調べた北海道大の迫田義博教授(ウイルス学)によると、哺乳類の感染例の多くはウイルスを保有する野鳥の捕食が原因で、鳥インフルの流行地域ではどこでも起こり得る。だが、22年10月にスペインの農場でミンクが集団で感染する事案が発生し、哺乳類同士での感染が疑われる事態となった。
懸念を裏付ける研究報告がある。カナダの公衆衛生庁や食品検査庁の研究者が野生のタカから取り出したH5N1型ウイルスをフェレットに感染させたところ安楽死が必要なほど重症化し、同じおりに入れた別のフェレットにも感染した。
さらに実験で、このウイルスが人の気道の細胞でも増殖することが確認された。研究チームは、人を含む哺乳類で広がる恐れがあり、流行株の監視が重要だと訴える。

人同士の報告なし

現在の鳥インフルの流行は、新たなパンデミックへ発展するのか。WOAHのレファレンスラボラトリー長でもある迫田さんは「鳥のウイルスが哺乳類の中でぐるぐると感染を繰り返した後に人間と出合うとどうなるのか、歴史上は経験がない」と話す。人で流行するウイルスはいつ誕生するのか、もう生まれているのか「分からない」(迫田さん)という。
冷静な見方を示すのは農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の内田裕子新興ウイルスグループ長だ。「人同士での感染は報告がなく、すぐに危機が訪れるような状況ではない」と話す。
20~23年に世界保健機関(WHO)に報告された人のH5N1型への感染は10カ国で17人(7月14日現在)と少ない。ほとんどは感染した可能性がある家禽(かきん)などとの接触があった。「今できることは人から人への感染例が本当にないのか情報を集め、発生に備えることだ」と内田さんは指摘する。

(共同通信)