ポピュリズムは想定内
日韓共同宣言当時、外相を務めた高村正彦氏に経緯などを聞いた。
―宣言がまとまった要因は。
「隣国同士は仲が悪く、双方が損していることが多い。普通の政治家は、仲良くしないといけないと分かっていながら、それができない。日本に小渕恵三首相、韓国に金大中大統領という大政治家がいて、両国が互いにウィンウィンの関係になる決断をした」
―日本の植民地支配への痛切な反省と心からのおわびを初めて明記した。
「韓国側から、過去について文書で一度謝ってほしい、そうすれば韓国政府は二度と過去を責めるようなことはしないとのメッセージが何度も届いていた。小渕氏に対応を問われ、良いでしょうと答えた。小渕氏はにやりと笑っただけだったが、腹を固めているなと思った。金氏の未来志向の考えに小渕氏が応えた」
―慰安婦や元徴用工の問題で関係が悪化した時期もあった。
「ポピュリズム(大衆迎合主義)に流されて関係が冷え込むことはあり得ると、宣言当時から言っていた。想定内だ。大政治家でない人がトップに立つと志を継げない」
―日韓関係の現状は。
「尹錫悦大統領はリスクを取り、改善に頑張っている。岸田文雄首相も一定のリスクを取り、筋の通る範囲内でできる限りのことをしてほしい」
―新たな宣言に期待する声もある。
「岸田、尹両氏の間でつくるのは一つの考え方だ」
◇ ◇
こうむら・まさひこ 中大卒。外相、法相、防衛相、自民党副総裁を歴任。17年に国会議員を引退。81歳。
信頼壊す政治 反省を
金大中元大統領の三男で国会議員の金弘傑氏に聞いた。
―宣言の意義は。
「共に北東アジアの安定と繁栄を目指す内容で、両国関係の新たなパラダイムをつくった歴史的快挙だ。北朝鮮との関係改善も日本抜きには進められず、2000年の南北首脳会談実現と(金大中氏の)ノーベル平和賞受賞にも大きな助けになった」
―金大中氏は宣言や小渕恵三元首相をどう語っていた。
「常に冷静な大統領だったが、宣言がまとまった時は本当に喜んだ。日本は通貨危機に苦しむ韓国を支援した立場から、宣言文作成の過程で自国に有利な内容を要求する強気な交渉もあり得たが、そうはせずに配慮してくれたと感謝していた」
「小渕氏の急逝には『もっと長く韓日関係発展に協力したかった』と悲しんでいた」
―岸田、尹錫悦両政権も宣言を重視している。
「本当に継承する意思があるのか疑問だ。未来志向の前提として『過去の直視』の必要性を明確にしたからこそ宣言は成功した。金大統領は訪日時の国会演説で『日本が過去を正しく認識し謙虚に反省する決断が足りない』とも指摘した。今は徴用工問題など(歴史問題)で過去を忘れて進もうとしている」
「日韓とも10年代以降、積み上げた信頼関係を壊す政治家の言動が相次いだ。25周年を祝うより、反省が先ではないか」
◇ ◇
キム・ホンゴル 南カリフォルニア大院修了。現野党「共に民主党」の役職を経て20年に国会議員初当選。国会外交統一委員会委員。59歳。