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アラブとの和解 大打撃 ハマスと「戦争状態」 「報復」長期化必至 イスラエル、譲歩困難   


アラブとの和解 大打撃 ハマスと「戦争状態」 「報復」長期化必至 イスラエル、譲歩困難    イスラエル軍の空爆で倒壊した建物の下を捜索する人々=8日、パレスチナ自治区ガザ(ロイター=共同)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが7日、イスラエルに対し大規模攻撃を実行した。「最悪の情報活動の失敗」(英BBC放送)で、例にない奇襲を許したイスラエルは報復の空爆を強化し「戦争状態」にエスカレート。対サウジアラビア国交正常化交渉をはじめ、アラブ諸国との和解を模索する外交政策にも大きな打撃となった。 (1面に関連)

真珠湾と比較
 飛び交うロケット弾。イスラエルの町を歩く武装戦闘員。拉致される市民ら―。交流サイト(SNS)には、ハマスの異例の奇襲攻撃を示す複数の映像が投稿された。
 戦闘員はボートやパラグライダーも使い、陸海空から侵入したとされる。
 イスラエルでは7日はユダヤ教の安息日だった。6日は、エジプトとシリアに先制攻撃を仕掛けられた第4次中東戦争開始から50年の節目。ハマスの動きを察知できなかったイスラエルにとり、今回はそれ以来の情報活動の大失敗となった。
 イスラエルのテレビには、旧日本軍による真珠湾攻撃と比較する識者も登場した。米紙ニューヨーク・タイムズは米中枢同時テロを引き合いに、イスラエルが受けた衝撃の大きさは当時の米国と同等だと指摘した。

ウクライナで支援減
 「敵はかつてない代償を払う。われわれは戦争状態にあり、勝利する」。イスラエルのネタニヤフ首相は7日の映像声明で、硬い表情を浮かべて報復の決意を強調。ガザではイスラエル軍の大規模な空爆が行われ、高層の建物が崩れ落ちた。
 昨年末発足のネタニヤフ政権には対パレスチナ強硬派の極右政党が参加し、史上最も右寄りの政権と言われ、軍は武装勢力掃討を強化していた。
 ハマスは2007年にガザを武力制圧したが、イスラエルが境界を封鎖。「天井のない監獄」と呼ばれ、経済危機が続く。
 追い打ちをかけたのがロシアによるウクライナ侵攻だ。多くの国や国際組織がウクライナ関連に支援予算を割き、他の地域は手薄に。
 国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のトップ、ラザリニ事務局長は「ガザの人道危機は以前から悪化していたが、侵攻が拍車をかけた」と語る。
 ハマスの奇襲はこうした状況下で起きた。

軍「重大な失敗」
 元イスラエル軍幹部でテルアビブ大国家安全保障研究所のコビ・ミハエル研究員は今回の奇襲を軍の「重大な失敗」と認め、対ハマス作戦は「決定的なものとなる。停戦はない」と長期化を予測する。イスラエルは近年、イランを警戒するアラブ諸国に接近し、20年にはアラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンなどと国交を正常化。ネタニヤフ政権はアラブの盟主サウジとの正常化を優先課題に掲げ、バイデン米政権の仲介で交渉を続ける。ただ今回の事態を受け、イスラエル側がサウジの求めるパレスチナ問題での譲歩に応じることは極めて難しくなった。ヨルダンの政治アナリスト、アメル・サバイレ氏は、ハマスは奇襲で「地域の将来にも重要プレーヤーであると証明しようとした。イスラエルの地上侵攻があり得る」と指摘。イスラエルにはサウジとの正常化は最優先でなくなり、サウジもパレスチナ人の死者が多数出た中で交渉を進められないだろうと語った。(カイロ共同=吉田昌樹)