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水俣訴訟 国と熊本県控訴 128人救済「過去判決と相違」


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 水俣病特別措置法に基づく救済策の対象外となった原告128人全員を水俣病と認め、国や熊本県、原因企業チッソに賠償を命じた大阪地裁判決を不服として、国と熊本県は10日、大阪高裁に控訴した。いずれも「過去の判決と大きな相違がある」などと理由を説明した。控訴期限は11日で、チッソは4日付で既に控訴している。
 国は、今回の判決を受け入れれば、感覚障害と他の症状の組み合わせを原則とした1977年判断条件による患者認定の枠組みに影響を与えかねないと判断。新潟、東京、熊本の各地裁で同種の訴訟が係争中であることも考慮したとみられる。
 国の控訴理由について環境省は、大阪地裁判決が指摘したメチル水銀への暴露の状況と、水俣病発症の因果関係などに関し「国際的な科学的知見や最高裁確定判決の内容と大きく相違する」とする文書を公表した。
 伊藤信太郎環境相は「関係省庁と協議を重ね、判決内容を精査してきた結果、上訴審の判断を仰ぐ必要がある」と述べた。
 熊本県の蒲島郁夫知事も「過去の判決と大きな相違があると判断した。苦渋の決断だ」と説明した。
 水俣病大阪訴訟の原告側弁護団の徳井義幸団長は記者会見し「極めて残念だ。これ以上裁判を続けるのは人道に反する」と批判。国と県の控訴を受け、原告128人のうち、一審判決で国や熊本県の賠償責任を認められなかった原告6人が11日に控訴すると明らかにした。
 2009年に施行された特措法は約3万8千人を新たな救済対象とし、一時金を支給するなどした。一方で原則として、水俣病に関しては不知火(しらぬい)海(八代海)周辺の熊本、鹿児島両県の9市町の沿岸部などに居住歴があり、チッソがメチル水銀排出を止めた翌年の69年11月末までに生まれた人などに限定した。
 大阪地裁判決は、特措法の対象の地域や年代から外れた人でも、メチル水銀に汚染された魚介類を多食すれば発症する可能性があると指摘。水銀暴露から長期間が経過した後に発症する遅発性水俣病の存在を認めた。
 弁護団によると、新潟、東京、熊本の各地裁で原告数は計1700人以上となっている。