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月経前不調にビタミンB6/薬普及へ治験/「使いやすさ」目指す


月経前不調にビタミンB6/薬普及へ治験/「使いやすさ」目指す 日本で処方される低用量ピルの一部
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 月経前に心身が不調になる月経前症候群(PMS)や、重い精神症状が主体の月経前不快気分障害(PMDD)で多くの女性が悩んでいる。治療には低用量ピルや抗うつ薬が用いられるが、婦人科や精神科を受診することへの患者の抵抗感はいまだに強く医師側の疾患に対する理解も十分でない現状がある。より使いやすい治療薬の普及を目指しビタミンB6の効果を調べる臨床試験(治験)に近畿大などが取り組んでいる。

神経伝達物質

 「仕事に身が入らず休んでしまう」「職場で感情を抑制できない」。PMSは月経前に3~10日間続く心身の不調で、月経が始まると軽減する。いらいらやうつ状態などの精神症状や、腹痛や乳房の張り、むくみなどの身体的症状があり、特に精神症状が重いものはPMDDと呼ばれる。
 近畿大東洋医学研究所の武田卓教授(産婦人科)は「症状が重く、常勤職に就けなくなる人もいる。家族など身近な人に当たってしまうケースも多い」と話す。
 PMSの原因ははっきりしないが、女性ホルモンの変動や、気持ちを落ち着ける「セロトニン」や「GABA」と呼ばれる神経伝達物質が脳内で減少することで引き起こされると言われる。ストレスとの関連性も指摘され、新型コロナウイルス禍によるストレスをきっかけにPMSになる人もいるという。

高い安全性

 治験で使うのはビタミンB6の一種「ピリドキサミン」。ビタミンB6は脳内の神経伝達物質の生成に欠かせないビタミンで、魚や肉、豆類に多く含まれる。水溶性で体内に長時間蓄積せず速やかに排出されるため、安全性も高いとされる。
 マウスに投与する実験ではセロトニンとGABAがいずれも増加して興奮を抑える結果が得られ、治療薬としての可能性が注目されている。
 治験は20~45歳の女性を対象に2020年から約4年間実施。参加者を3グループに分け、約5回の月経周期の間、それぞれにピリドキサミンを多く含む薬、少ない薬、全く含まない薬(偽薬)を服用してもらい、効果と安全性を確認する。
 武田さんは「婦人科や精神科以外の医師が処方できるようになるのが理想。患者さんの選択肢を広げ、治療の普及に役立てたい」と意気込む。

心理的ハードル

 「昔に比べるとピル服用への抵抗感は薄れてきたが、婦人科や精神科を受診する心理的ハードルは依然として高い。一方の医師側でも、PMSに対する理解は十分に広がっていない」。楠原ウィメンズクリニック(東京)の楠原浩二院長はこう指摘する。
 21年に日本産科婦人科学会が会員の医師1312人に行った調査では、PMSやPMDDの診断方法について84・4%が「漠然とした問診のみ」と答え、患者に一定期間の症状を記入してもらう質問票による診断は10・3%にとどまった。また、実際の治療では76・8%が第1選択薬としてピルを使い、抗うつ薬は2・6%だった。
 楠原さんは「PMSよりも症状の重いPMDDで受診する人が多い。精神症状には比較的抗うつ薬が効果的だ。医師が薬の効能を正しく理解し、婦人科でも抗うつ薬を処方する動きが広がってほしい」とした上で「(ピリドキサミンのような)治療の選択肢が増え、患者に合わせて処方できるといい」と期待感を示した。 
  (共同=寺田佳代)

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<用語>ビタミンB6

 ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミンという3種類の化合物の総称。水に溶けやすく、酵素の働きを助ける補酵素としてタンパク質の分解や合成に関わるほか、免疫機能の維持や皮膚の抵抗力増進、ヘモグロビンの合成、脂肪肝の予防、ホルモンバランスの調節など、さまざまな作用がある。魚や肉、豆類をはじめとした幅広い食品に含まれる。不足すると皮膚炎や口内炎などを起こし、過剰に摂取した場合は神経障害を起こす可能性がある。

日本で処方される低用量ピルの一部