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旧統一教会の解散請求 拙速避け、被害証言収集 質問権で「時間稼ぎ」 100人規模


旧統一教会の解散請求 拙速避け、被害証言収集 質問権で「時間稼ぎ」 100人規模 解散命令請求に関する文化庁の説明骨子
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の解散命令請求が決まった。岸田文雄首相が関係閣僚に調査を指示して1年。政権サイドから早期請求のプレッシャーもあったが、拙速な手続きで裁判に負ければ、教団側に「お墨付き」を与えてしまうとして、文化庁は「地道な証拠集め」を主張。質問権行使で「時間稼ぎ」をしつつ、多数の被害者証言を根拠として、請求に踏み切った。
  (1面に関連)
 「あなたは教団の中でどう育ってきたのですか」。文化庁宗務課の担当者が元信者と向き合った。生い立ち、献金の状況などを聞き取っていく。陳述書を作成するためのヒアリングは2時間以上に及んだ。
 ある元信者によると、ヒアリングは2回。メールなどでの事実関係確認も何度もあったといい、「丁寧に私たちの声を聞き取ろうとしてくれていた」と振り返る。
 請求に向け、文化庁が最も傾注したのが被害者の証言集めだ。「100人規模」(文部科学省幹部)を目指し、40人態勢に増強された宗務課の担当者が全国を飛び回り、被害者から聞き取った内容を陳述書にまとめた。
 ヒアリングで担当者はこうも伝えたという。「皆さんの話を聞き、われわれは正しい判断をしたい」。最終的に集めた証言は170人超。悲惨な境遇や、高額献金被害の実態、規模を立証する資料となった。
 昨年7月の安倍晋三元首相銃撃事件を機に教団の高額献金被害がクローズアップされたが、文化庁は当初、過去のオウム真理教の例などと異なり、教団幹部が立件された刑事事件がないことから解散命令請求に後ろ向きだった。
 姿勢が変化したのは昨年9月だった。世論の批判の高まりに「何もしないわけにいかない状況」(文化庁関係者)に。教団が敗訴した過去の民事判決を読み込んだところ、組織的な不法行為責任を認められているものがあったことから、合田哲雄次長が決断。解散命令の要件を満たす「疑い」があると言え、「質問権の行使は可能」と官邸に伝えた。
 政権内で意見が割れたものの、官邸側がゴーサイン。創価学会を支持母体とする公明党への根回しが終わると、昨年10月17日、岸田首相が永岡桂子文科相(当時)に調査を指示し、約1カ月後に初行使にこぎ着けた。
 しかし、予想通り解散命令に直接つながるような重要資料はなかなか手に入らず、権限行使の意味合いは変わっていく。政府関係者は「重要なのは必要な数の証言を集めることで、そのための『時間稼ぎ』になった面はある」と話す。
 調査開始以来、高額献金被害の救済を図る不当寄付勧誘防止法の成立や統一地方選などの政治日程に合わせ、早期の解散命令請求を求める声が官邸や自民党からあったという。そのたびに文化庁側は「証拠が集まっておらず、負ける可能性が高い」と反論。「官邸も『粛々と証拠を集めるしかない』と変化していった」(文科省関係者)
 調査に強制力がない中、積み上げた証拠資料は約5千点、段ボール箱20個分に上り、解散命令請求の理由には、法令違反だけでなく、宗教団体の目的を逸脱していることも加えた。
 12日の記者会見で合田次長は「解散命令事由に該当する。これからは裁判に全力を尽くす」と強調。その証拠の真価はこれから始まる裁判で問われることになる。