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やっとスタートラインに 元2世、背負った宗教虐待


やっとスタートラインに 元2世、背負った宗教虐待 国会議員や官僚らに、旧統一教会による被害を説明する元2世信者の男性=9月、国会内
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の元2世信者で、関東地方の30代男性は、宗教的虐待を受けながらも教義に忠実に生き、教団トップが選んだ信者と結婚した。だが妊娠を機に教団に疑問を持ち、信仰を捨てた。「あんな生き方は間違っていた。子どもたちに自分と同じ苦しみをさせたくない」。13日にも予定される解散命令請求は「被害救済に向けた最低限のスタートラインに立つだけ」と受け止めている。
 信者の家に生まれ、教団幹部が名付け親となった。信仰を強いられ、朝5時から家族で教えを音読する生活。両親は宗教行事で外出がちで、掃除や洗濯などの家事は子どもの役割だった。奨学金は生活費に使われ、きょうだいの学費は肩代わりした。振り返るとヤングケアラーのようだった。
 昨年末に公表された宗教的虐待に関するQ&A形式の厚生労働省の文書を見て、自身の過去の苦しさは虐待だったと気付いた。もっと早く認識していれば周囲に助けを求められたかもしれない。
 「あなたには結婚相手がいる。他の女性を好きになってはいけない」と言われ育った。まだ見ぬ相手のため、思春期は女性と目も合わさぬよう気をつけ、話しかけられても無視をした。厳しい修行にも耐え、20代で当時の教団トップ文鮮明総裁が選んだ妻と結婚した。
 教団に従い「祝福結婚」した2人が授かった子は「神の子」で、原罪のない存在とされる。だが、おなかの赤ちゃんに病気が見つかった。教団の霊能者に頼っても「治った」と主張されるだけ。信者からは「先祖供養の献金が足りない」と批判された。赤ちゃんは中絶せざるを得なかった。自分たちが苦しかったとき、人生をささげた信仰は救いにならなかった。
 70代の両親は半世紀ほど前に入信した。年金に加え毎月約20万円の収入があるが貯金は十数万円ほど。ここ数年も500万円超の献金をしてきた。働けなくなったり介護が必要になったりすれば生活は破綻する。
 その影響を被るのは2世である自分だ。既に300万円以上を渡してきた。教団への返金要求を提案しても自殺をほのめかし説得できない。教団に人生をささげてきた2人を恨む気持ちより「かわいそう」と感じる。
 安倍晋三元首相銃撃事件で「宗教2世」への注目が集まったのを機に、「もるすこちゃん」という名で自身の経験や教団の実態をユーチューブで伝えてきた。教団には活動をやめるよう言われ、インターネット上では現役信者からとみられる批判にもさらされてきた。
 春の統一地方選では、政治家と教団との接点をまとめたデータベースを公開した。教団から支援を得るために依存し合い、信者を利用してきた政治家は責任を問われるべきだと考えたからだ。
 被害が放置されてきたのは、社会の無関心や無理解があったから。現役や元信者への偏見や差別も心配だ。「解散命令だけでは問題は解決しない。政治の道具にせず、被害救済に真剣に取り組んで」。今後も政治や司法の動きを見つめ続ける。
国会議員や官僚らに、旧統一教会による被害を説明する元2世信者の男性=9月、国会内