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知的障がい者の育児 支援を/希望かなわず別居も/グループホームなど財政補助必要


知的障がい者の育児 支援を/希望かなわず別居も/グループホームなど財政補助必要 男児の写真を見つめる、自閉症がある女性=9月、さいたま市(画像の一部を加工しています)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 サポートがあれば育てられるのに―。軽い知的障害がある神奈川県の女性が子どもを乳児院に預けざるを得なくなっていたことが明らかになった。知的障害や発達障害がある人の出産、子育ては実態が不明な部分が多く、こうしたケースはほかにもあるとみられる。専門家からは「当事者の希望をくんだ仕組み作りや、国の財政措置が必要だ」との声が上がる。

生きる理由

 「彼女と子どもはこれからどうなるのか…。心配だ」。運営するグループホーム(GH)で子育てを支援している社会福祉法人「上州水土舎」(群馬県富岡市)の金谷透理事長は、自身に相談に来た自閉症の女性(24)の行く末に気をもむ。
 女性はさいたま市在住で、2020年に男児を出産。知的障害はなく、交際していた男児の父親と協力して一般のアパートで子育てをしていた。だがうまくいかず、同法人を訪れ「GHで支援を受けながら子育てしたい」と訴えた。
 結局、GHでの子育てについては女性の周囲の理解を得られず、その後男児をやむなく乳児院に預けた。
 女性は男児と別れたこともあって精神的に不安定になり、心療内科に通院している。
 今は男児の父親と交際を解消。男児と暮らすことを目指し、年内に仕事を始めて貯金しようとしている。女性は取材に対し「GHでの子育てが正しいのかも分からない。どう暮らすのがいいのか悩んでいる。ただ、息子は私が生きる理由。将来的には何とか引き取りたい」と吐露する。

自分も成長

 GHは障害者が支援を受けながら地域社会で自立生活を送れるようにするのが大きな目的で、入居者は年間1万人ほどのペースで増加。今年5月現在、約1万3千カ所で約17万4千人に上る。
 多くは寮や下宿のような形態での共同生活で、子育てするには他の入居者の理解が必要。職員が育児を支援したとしても、現在の制度では費用は運営事業者の持ち出しとなる。そのため、子育てができるGHはあくまで例外的存在だ。
 そのうちの一つ、神奈川県茅ケ崎市のNPO法人「UCHI(うち)」のGHでサポートを受けながら子育てする女性(27)は「育児を通じて多くのことを学び、自分も成長できた」と話す。「将来的にはGHを出て暮らす予定だが、出産直後にそれを求められても難しかった」と振り返る。
 知的障害者の育児について調査している日本学術振興会の延原稚枝特別研究員は「支援が十分にないため、本人の意向に反して乳児院を利用する場合が少なくない。希望に沿った支援が得られるよう、GHに対する国の補助などを検討すべきだ」と指摘している。

男児の写真を見つめる、自閉症がある女性=9月、さいたま市(画像の一部を加工しています)