有料

<視標> 旧統一教会解散命令請求 鈴木エイト氏(ジャーナリスト) 


<視標> 旧統一教会解散命令請求 鈴木エイト氏(ジャーナリスト)  ジャーナリストの鈴木エイト氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

国が教団の公益性問う

 文部科学省が宗教法人世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への解散命令を東京地裁に請求したことで、国は教団の公益性を正面から問う姿勢を示すことになった。
 昨年7月に起こった安倍晋三元首相銃撃事件の背景から、教団による高額献金や家庭破壊、2世問題など、さまざまな被害が継続していたことを多くの人が知った。そんな反社会的教団に宗教法人として税制上の優遇などが与えられてきたことが疑問視された。
 解散命令には「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」の立証が必要だ。
 全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の集計によると、教団側の悪質な勧誘による高額の献金、物品購入などの被害は昨年までの36年間で1280億円を超え、実際の被害額は1兆円以上とも指摘されている。
 文科省の外局で宗教法人担当の文化庁は、全国弁連と連携。各地の被害者へのヒアリングを重ねた。並行して「報告徴収・質問権」に基づき、内部資料などを収集して証拠を積み上げ、ようやく請求が出せる段階になったと判断したようだ。解散命令が出るレベルまで精度と確度を高めたということだろう。
 甚大な被害をもたらしてきた教団が宗教法人であり続けた、そのゆがみがようやく是正される方向となった。宗教団体を票田とする党内抵抗勢力の圧に屈せず、請求にこぎ着けた岸田文雄首相を評価したい。
 ただ非公開の審理で解散命令が確定するまで、半年から1年程度は時間を要するとみられる。確定後は教団の清算手続きに移行し、被害者も債権者として賠償を受けることは可能だが、会社法とは異なり、宗教法人法に財産保全の規定がなく、教団が保有する資産・財産の散逸が危惧される。
 秋の臨時国会で宗教法人法の一部改正案や特別措置法案が審議されるようだが、与野党が協力し被害救済につながる法律成立へ尽力してほしい。
 解散命令が確定しても教団は宗教団体として存続可能だ。高額献金も継続するとみられており、さらなる監視が必要である。また教団の問題を放置したばかりか、選挙支援などの見返りに、教団の保護に寄与し被害を拡大させてきた政治家たちの責任追及はなされておらず、安易に幕引きさせないことも重要だ。
 文化庁が今年9月、報告徴収・質問権の行使に対し不誠実な回答をしたとして、東京地裁に過料を求めた際、教団は質問権行使などが違法だと主張する会見を開き、国への敵対姿勢をあらわにした。報道に不安を抱く信者への内部統制としての意味合いも感じた。
 また教団側では、一連の追及や国の対応を「宗教迫害」「宗教ヘイト」などと主張し、扇動された一部信者の先鋭化も懸念される。文化庁は関連を明言していないが、庁舎入り口を閉鎖しているのは、職員の安全を図る意図があるのだろう。
 一方、組織と信者個人は分けて考えるべきである。2世や現役信者が差別や偏見にさらされないよう、人権への視点を常に持ってほしい。
 ここまで来られたのは「手相の勉強」などの手法で勧誘する教団に疑問を持ってから20年余り、実態を報じ続けた結果だと思っている。
   ◇   ◇
 すずき・えいと 1968年滋賀県生まれ。日本大卒。2002年から旧統一教会問題に取り組む。