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水難の備えに「着衣泳」を 競泳岩崎さん、普及活動に力


水難の備えに「着衣泳」を 競泳岩崎さん、普及活動に力 着衣泳教室で、基本となる「背浮き」を教える岩崎恭子さん=9月、東京都千代田区
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 地球温暖化などの影響で水難事故のリスクが高まる中、服を着たまま泳ぐ「着衣泳」の重要性が増している。普及活動に力を入れている1992年バルセロナ五輪競泳金メダリストの岩崎恭子さん(45)は「事前の知識が大事。一人でも多くの命が助かれば」と訴えた。
 「もっと足の力を抜いてごらん」。9月中旬、東京都千代田区の昌平小学校で開かれた着衣泳教室。岩崎さんが4年生約20人を対象に、顔と足を浮かせる基本の「背浮き」などをプールで指導した。参加した吉田昂司君(10)は「ペットボトルなどを使っても浮けるということが分かった。災害が起きたときに生かしたい」と話した。
 岩崎さんは20年ほど前に、テレビ番組の企画で着衣泳を初めて経験。競泳で世界一になったスイマーでも、服を着たまま泳ぐことは容易ではなかったという。東日本大震災で着衣泳を実践したことで救助された事例も耳にし「多くの人に伝えていかなければ」と感じ、教室を開催してきた。
 今年6月には専門家も参画する普及プロジェクトを始め、取り組みを強化している。
 プロジェクトによると、日本の溺死率は世界の中でも上位。海抜の低いオランダでは子どもの頃から着衣泳の教育が根付いているのに対し、日本の水泳の授業で教わるのは「競泳」が中心だ。東京海洋大の田村祐司准教授は「水泳に対する考えが欧米とは異なる」と指摘し、日本の教育現場でも「命を守るための水泳」を教えることが必要と強調した。
 プロジェクトを始めてから、教室で使うライフジャケットを企業から提供されるようになり、岩崎さんは認知度が少しずつ上がってきていると感じているという。今後は水難対策について国や地方自治体への提言なども行う予定だ。「水の中でしか経験できないことがある。地道な活動しかない」と力を込めた。
着衣泳教室で、基本となる「背浮き」を教える岩崎恭子さん=9月、東京都千代田区