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減税実現 道筋は不透明 経済対策 首相、支持率反転へ模索


減税実現 道筋は不透明 経済対策 首相、支持率反転へ模索 所得税減税を巡る構図(似顔 本間康司)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 岸田文雄首相の手元に自民、公明両党の経済対策の提言が届けられた。首相は、減税を含む国民への「還元策」の取りまとめ作業を加速し「増税イメージ」(首相周辺)の払拭を狙う。ただ焦点だった所得税減税は明記が見送られ、与党内からは落胆の声が漏れる。低迷する内閣支持率の反転へ首相は引き続き減税実現を模索するが、多くを語らず道筋は不透明だ。
 「国民への還元の在り方については、与党の提言も踏まえて早急に具体化を図りたい」。首相は17日、官邸で記者団から所得税減税を実施するかどうかを問われたが、回答を避けた。
 これに先立ち官邸を訪れた公明の高木陽介政調会長は、提言には明記していないものの「所得税減税を意識していただきたい」と訴えた。首相は「政府案を検討し、改めて与党に示したい」と述べるにとどめた。
 同じく提言を渡した自民の萩生田光一政調会長とは減税を巡るやりとりはなかった。所得減税論は、いったん下火になった形だ。
 「俺は増税するなんて一度も言っていない。岸田政権でどれだけ税収が増えたと思っているんだ」。首相は9月末、共に食事した自民若手にいら立ちを隠さなかった。交流サイト(SNS)では、かつて「メガネベストドレッサー賞」を受賞し、物価高の中で防衛増税方針を示す首相に対し「増税メガネ」とやゆする言葉が飛び交っていた。
 減税論の旗を振ったのは首相自身だった。9月下旬、経済対策の策定を表明した際に「国民に対し、成長の成果を適切に還元する」と強調。給付措置や税負担軽減にも言及した。
 首相の「還元」発言を受け、与野党内には首相が減税を掲げて早期の衆院解散に踏み切るのではないかとの観測が強まる。自民の世耕弘成参院幹事長は「所得税の減税も検討対象になる」と主張。公明の山口那津男代表も「物価高対応への現実的な手法として所得税減税が望ましい」と踏み込み、歩調を合わせた。
 強まる減税論に待ったをかけたのは自民内の財政規律派だ。必要な法改正は早くても来年1月召集の通常国会となり「時間がかかり過ぎる」との意見が拡大。所得税が非課税の低所得層には恩恵が及ばないため、自民税調幹部は「『金持ち優遇』とたたかれるだけだ」と慎重論を唱えた。結局、提言への明記は見送られた。
 与党内には首相の煮え切らない態度に不満がくすぶる。報道各社の世論調査で、岸田内閣の支持率が最低水準に下落し、所得税減税が政権浮揚の足掛かりになるとみられていたためだ。自民幹部は「首相は減税を軽く打ち出し、軽く引っ込める。官邸の力が弱くなった」とあきれ顔。公明幹部も「官邸と自民の意思疎通はできているのか」と語気を強めた。
 年末には、防衛増税や少子化対策の財源が論点となる。ここに所得税減税の議論が加われば、自民内で論争に発展しかねない。政権幹部は「首相は所得税減税に意欲はある。ただ、そんなに簡単な話ではない」と本音を明かす。
 首相は最近、周囲にこう漏らした。「まだ何も決めていない。だが政治決断で打ち出さないといけないこともある」