有料

高齢者支える移動スーパー/見守りや交流促進にも/「アクセス困難」825万人


高齢者支える移動スーパー/見守りや交流促進にも/「アクセス困難」825万人 「移動販売はソーシャルビジネス。お客さんとお互いに向かい合うことによって、結び付きができる」と話す安達享司さん
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 運転免許証の自主返納などで移動手段が限られ、買い物に困難を抱える高齢者は数多い。そんな中、存在感を増しているのがスーパーの移動販売だ。食料品などを積んだ車が定期的に訪れ、暮らしを支えるとともに「見守り」や「交流の促進」にも一役買っている。
 7月から「カスミ」(茨城県)の移動スーパーが巡回する埼玉県杉戸町。8月中旬の午後、田んぼの多い地区の集会所に派手な軽トラックが現れた。「しらすはないですか?」「こっちかな」―。高齢の女性客を店員がサポート。1人暮らしで車のない80代女性は「品物がそろっていて便利。(客に)顔見知りが多く、あいさつ程度でも話ができる」と満足そうだ。
 同町住民協働課によると「スーパーが閉店して困っている」といった声を受け、移動販売に力を入れるカスミに町が相談した。カスミ杉戸店長の橋本康信さんは「同じ店員が担当するので、お客さんと顔なじみになり見守りに役立つ」。同課主任の中村拓実さんは「『久しぶり』などと声をかけ合えば住民間の交流も生まれる」と期待する。
 農林水産政策研究所の推計では、スーパーやコンビニから500メートル以上離れ、自動車利用の困難な65歳以上の高齢者を指す「食料品アクセス困難人口」は、2015年は全国で約825万人に。75歳以上、そして都市部の増加が顕著という。
 過疎化が進む中山間地域でも「アクセス困難」は深刻だ。お盆前、鳥取県日野町のスーパー「あいきょう」の移動販売に同行。車1台がぎりぎり通れるほどの細い道沿いには民家は点在するが、スーパーのような店舗は見当たらなかった。
 約30年前に移動販売を手がけた「あいきょう」創業者の安達享司さんが、70歳を機に事業譲渡を決意。町は移動販売の他、高齢者の見守りや電球交換など暮らし支援の事業として4年半分の委託料を確保し、公募の結果、同町で農業に従事する高田昭徳さん(42)が代表社員の合同会社「ひまわり」が、昨年10月から引き継いだ。「お世話になった方たちが困っていく姿は見たくない」。高田さんの思いが後押しした。
 「免許返納したので助かる」「昼間は車を運転する人がいない」。さまざまな事情から70~80代の女性客が軽トラックに集う。高田さんは買い物を手伝いながら「足の調子が良さそうだね?」「散髪しました?」と声をかける。「お年寄りは高田君に会うのが楽しみなんですよ」と安達さん。
 高齢化が進んで顧客の減少は避けられず、状況は厳しい。だが天気の話題から暑い中エアコンをつけていないことが分かるなど、何げない会話で問題や困り事に気づくことも。「できるだけ長く続けてあげたい」。願うように高田さんは話した。

「カスミ」の移動スーパーで、店員(右)の説明を受ける買い物客=埼玉県杉戸町

「移動販売はソーシャルビジネス。お客さんとお互いに向かい合うことによって、結び付きができる」と話す安達享司さん