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救命胴衣レンタル 子を守れ


救命胴衣レンタル 子を守れ 香川県の救命胴衣レンタル事業の普及に取り組む森重裕二さん=6月、高松市
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

官民連携、教育現場を支援
 子どもの水難事故が全国で相次ぐ中、香川県が教育を通じて未然に防ぐ取り組みに乗り出している。県はライフジャケット(救命胴衣)を民間と協力してそろえ、無償で学校へ貸し出すことで胴衣を用いた授業を支援。早くから胴衣に慣れ親しむことで必要性を実感してもらい、普及につなげるのが狙いだ。予算の制限から胴衣の導入が進まない教育現場の現状を打開する一手になるかどうか、注目される。

香川県の実践に注目
 「ベルトを股下に通さないと、浮いた時に脱げちゃうよ」。7月上旬、高松市立弦打小が高学年を対象に胴衣の着用法などを教える水泳授業を開いた。昨年に続き2回目で、6年生は慣れた様子で身に着けていた。
 香川県教育委員会が2022年度からスポーツ庁の委託で実施する、胴衣の普及事業の一環だ。消防職員らを学校に派遣し、溺れた際の基本である「浮いて呼吸を確保する」動作を指導する。
 胴衣は学校や子ども会などを対象に、県教委が無償で貸し出している。きっかけは21年5月、同県丸亀市のため池に釣りに来ていた父子が溺れて死亡した事故だった。事故を知った高松市の企業から「子どもを守るため利用してほしい」と50着の寄付を受け、同年6月から運用を開始した。
 その後も多数の会社から寄付が集まり、県が購入した分も合わせて現在340着を保有。毎年募集後すぐに夏期の予約が埋まる人気という。弦打小の木田英登教頭(44)は「学校の予算で人数分の胴衣を買うのは難しく、ありがたい」と話す。取り組みには全国の自治体から問い合わせが相次いでおり、来年1月にも成果発表会を県内で開く予定だ。
 日本ライフセービング協会(東京都)の松本貴行副理事長(48)によると、全国の学校の水泳授業では泳法や着衣泳の指導が中心で、胴衣を用いた実践は限られるという。松本さんは「着衣泳はあくまで緊急時の対処に過ぎない。香川県のように、未然防止へ考え方を変えないといけない」と指摘。胴衣をいつでも使える環境の整備や教育の拡充を訴える。
 香川県の胴衣レンタル事業を「香川モデル」と名付け、普及に取り組んでいるのが高松市の石材業森重裕二さん(47)だ。滋賀県出身で、元小学校教員の経験から絵本制作などを通して胴衣着用の大切さを伝える活動を07年から続ける。
 今春、全都道府県に胴衣を寄付しようとクラウドファンディングを行った。賛同した企業も出資し、計約300万円を調達。受け入れ可能と返事があった7県に計380着贈った。森重さんは「自治体には胴衣の準備を進め、事故を防ぐ義務がある」と強調する。

 水難事故 警察庁の「水難の概況」によると、2022年の水難者は1640人で、うち中学生以下は198人だった。全体の約44%が死亡、または行方不明になっている。海や河川での事故が全体の8割超を占め、行為別では魚捕りや釣りをしていた時の事故が目立った。警察庁は防止対策として、危険箇所を把握して近づかないことやライフジャケットの着用、子どもから目を離さないことなどを挙げている。