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逆風の首相、解散へ難路 減税、有権者に響かず    


逆風の首相、解散へ難路 減税、有権者に響かず     国会議事堂を背景に、岸田首相(左)と立憲民主党・泉代表(右)のコラージュ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

補選1勝1敗
 岸田政権に対する中間評価が下された。内閣支持率低迷の逆風にあえぐ岸田文雄首相。衆参統一補欠選挙の投開票を控え、所得税減税を含めた税収増の還元策検討を指示したが、有権者に十分響いたとは言い難い。保守地盤での与野党対決は1勝1敗に終わった。今後の政権運営や衆院解散戦略に不安を拭えない。保守分裂や敵失に乗じた野党には、次期衆院選への協力関係構築になおハードルが立ちはだかる。 (1面に関連)

暗雲
 「いろいろな情勢調査の数字があるが、接戦なのは間違いないな」
 首相は22日の投開票日直前まで、激戦となった衆院長崎4区の分析を続け、周囲にうなった。
 統一補選の2選挙区は、元々自民党の議席だっただけに「2勝は必達目標」と位置付けていた。ただ実態は「マイナスからのスタート」(選対筋)。参院徳島・高知選挙区は、秘書を殴った高野光二郎氏(自民を離党)の辞職に伴う戦い。徳島と長崎は、知事選を巡る分裂のしこりが残り、一枚岩には程遠かった。
 選挙戦中盤に入ると、徳島・高知で野党系候補にリードを許す情勢分析が政権幹部に届いた。「勝利は堅い」(官邸筋)とみていた長崎4区も猛追され、暗雲が漂った。長崎は宏池会(岸田派)と縁が深いため「宏池会の選挙だ」と距離を置く自民幹部もいたほどだ。
 「選挙の顔」として期待された小渕優子選対委員長は組織票固めを優先し、街頭に立って無党派層への浸透に努めることはほとんどなかった。選挙期間中の細田博之氏の衆院議長辞任会見や、木原稔防衛相の不用意な応援演説も足を引っ張った。自民ベテランは「複雑骨折の状態で投開票日を迎えた」と評した。

ご都合主義
 「2敗さえしなければ御の字だ」。苦戦を伝える情報が増えるにつれ、首相周辺は予防線を張り始めた。2敗は求心力を急速に失い「岸田降ろし」につながりかねない。1勝でもすれば、減税を柱とした経済対策を進める政権の取り組みに推進力を得て、失地回復する余地があるというわけだ。
 ただ、これは「ご都合主義」(閣僚経験者)である面は否めない。所得税減税は、自民内でも懐疑的な声が上がる。保守地盤で2勝できなかった事実は重く、政権の懸念材料として残るのは必至。早期解散に慎重論が出て、首相が描く来年9月の党総裁再選戦略にも影響する可能性がある。
 茂木敏充幹事長は22日夜、記者団に「厳しい戦いだった」と振り返った。

険しい道
 対する野党。立憲民主党の泉健太代表が首相の物価高対応を「無策」と非難し、自民2勝を阻んだ。大串博志選対委員長は「一つもぎ取れたのは大きい」と述べ、野党協力の進展に期待する。だが各党の胸の内は一様ではない。
 立民と共産党は幹部が地元入りするなど注力したのに比べ、日本維新の会と国民民主党は目立った動きをせず、及び腰だった。結果的に野党候補の一本化の素地ができたものの、衆院選に向けた候補者調整に積極的とは到底言えない。
 立民と共産の関係も微妙だ。「野党共闘」を切望する共産は、統一補選を共闘に向けた「前進の契機」(小池晃書記局長)と捉える。
 徳島・高知の勝利をてこに各党との連携を強める構えだ。
 一方の立民は、最大の支持団体・連合が長年、共産と相いれない。そのため共産との関係について白黒をはっきりさせず「野党議席の最大化」という曖昧戦略を取る。
 立民ベテランは引き締めを図る。「徳島・高知は自民の失点による棚ぼたの勝利だ。協力構築の道はまだまだ険しい」