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思い合う形、一冊の漫画に/性別、立場関係ない恋愛/「環と周」/よしながふみさん新刊


思い合う形、一冊の漫画に/性別、立場関係ない恋愛/「環と周」/よしながふみさん新刊 テレビ東京系で毎週金曜放送のよしながふみさん原作のドラマ「きのう何食べた? season2」(ⓒ「きのう何食べた? season2製作委員会、ⓒよしながふみ/講談社)
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 漫画家よしながふみさんは、男性カップルの日常を描いた「きのう何食べた?」や、江戸時代の男女の役割を逆転させた「大奥」などの作品で、性別や立場に縛られない恋愛の形を描いてきた。最新作の連作短編漫画「環(たまき)と周(あまね)」(集英社)はその流れをくむ。「構想16年。新しいキャラクターを考案したのも16年ぶり。やりがいがありました」

 本作は全5話。物語ごとに、時代設定も関係性も異なるが、環、周という名前の人物が、それぞれの形で互いを思い合うのは共通している。「『好き』は、時代が変わっても変わらない、人間の普遍的な感情。そのことを一冊の中で表現できて、すごく楽しかった」
 1話目の舞台は現代。中学生の娘がいる母親の環は、娘が女子生徒とキスをしているのを偶然見かける。環は、夫の周に「大丈夫だよね? 高校に上がって環境が変わればあの子もケロッと普通に彼氏作ったりしてるよね?」と相談。この「普通」という言葉に、周はむきになる。周も中学の時、男子生徒を好きになったことがあり、娘の気持ちが分かったからだ。そんなある日、娘が家を飛び出してしまう…。
 よしながさんにとって少女漫画は、マイノリティーを「あなたはそのままでいいのよ」と優しく包み込むもの。恋愛や友情などの物語を通じて、読者のさまざまな生き方を肯定することのできるジャンルだと信じ、長年取り組んできた。近年は女性の人気が「週刊少年ジャンプ」に代表される少年漫画に集まりつつあるが「『これがなかったら生きていけない』という人が必ずいるジャンルです」と力を込める。
 第2話は明治期の女学生同士の友情がテーマ。結婚が迫る周の心模様を細やかに表現。「短編なので、情報をどれだけぎゅっと詰め込めるかが重要。みなさんに少しでも、たくさん読んだ気持ちになってもらいたいと工夫しました」
 第3話は昭和。余命宣告を受けた女性と、同じアパートに住む男児の交流を描く。第4話は終戦直後の復員兵の同志愛だ。「悲しい結末が多いんですが、全ての登場人物が『出会わなければよかった』とは思っていない。いつか別れが来るからこそ、一緒にいられる今って大事ですよね」
 刹那的な「好き」を大切に抱きしめて―。本作を象徴するのが第5話だ。江戸時代の武士の環と、幼なじみの娘・周の悲恋を描いた。「環は、周が自分のそばにいなくても、幸せでいてくれさえすればよかった。恋というよりは、愛だと思います」。一冊を読み終えると、本作に秘められた仕掛けが明らかになる。
 よしながさんは来年、漫画誌「ココハナ」で新連載を始める予定。「温めてきた芸能界ものに取り組みます」と笑った。

連作短編漫画「環と周」(ⓒよしながふみ/集英社)

テレビ東京系で毎週金曜放送のよしながふみさん原作のドラマ「きのう何食べた? season2」(ⓒ「きのう何食べた? season2製作委員会、ⓒよしながふみ/講談社)