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経済連呼、解散戦略に影 焦る首相、野党攻勢へ 職を賭して 鬼門 本音


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 岸田首相は所信表明演説で、経済対策に全力を注ぐ考えを繰り返し強調。減税など「国民への還元」をアピールし、内閣支持率の回復につなげる狙いだ。ただ衆参統一補欠選挙は1勝1敗に終わった。衆院解散戦略に影を落とす結果を突き付けられ、焦る首相。自民党からは「選挙の顔」としての首相に疑問の声が漏れ始めた。野党は物価高対策に照準を合わせ、攻勢を強める。
 「経済、経済、経済。私は何よりも経済に重点を置いていく」。23日、首相は所信表明で28回にわたり「経済」と連呼。「職を賭して粉骨砕身取り組む覚悟だ」と明言し、演説を締めくくった。経済の「変革」を3年程度で進めると訴えると、野党から「これまで何をしていたんだ」と激しいやじが飛んだ。
 経済を演説の柱に据えたのは「首相のこだわり」(周辺)だった。物価高が政権を直撃しており、国民の不満解消を急ぐ必要があると判断したためだ。所得税減税を含む経済対策を11月2日に決定し、裏付けとなる2023年度補正予算案の早期成立を目指す。官邸筋は「首相は勝負をかけている」と明かした。
 首相は経済対策をてこに政権浮揚を図った上で、衆院解散時期を慎重に見極める意向だ。来年9月の自民総裁任期満了までに衆院選で勝利して党内の支持を引き付け総裁選を無投票で乗り切るのが基本戦略とされる。
 だが22日投開票の参院徳島・高知選挙区補選で自民候補が大敗。衆院長崎4区補選は辛勝だった。共同通信の出口調査で首相の経済対策への評価を聞くと、勝利した長崎の自民支持層ですら、わずかとはいえ「評価しない」(28・5%)が「評価する」(26・9%)を上回った。「どちらとも言えない」に至っては42・1%に上った。
 閣僚経験者は「えたいの知れない経済対策だと思われている証拠だ」と指摘。これに対し政権幹部は「物価上昇率に賃上げが追い付くまでは減税でも何でもやる。今は耐える時だ」と話す。
 補選は歴代首相にとって鬼門だ。菅義偉前首相は21年4月、衆参2補選と参院再選挙で全敗し、同年9月の総裁選不出馬に追い込まれた。このまま岸田内閣の支持率が反転しなければ、首相が解散に踏み切れず、求心力を失う展開も予想される。自民中堅は「選挙に弱い首相の下で次期衆院選を戦うわけにはいかない。『岸田降ろし』が始まりかねない」とみる。
 「首相は国民に届く経済対策を真剣に考えるべきだ。強く訴えていきたい」。所信表明を受け、立憲民主党の泉健太代表は記者団に語った。24日からの衆参両院の代表質問や予算委員会では、物価高対策に焦点を当てて政権を徹底追及する。首相が与党に検討を指示した所得税減税を巡っても「減税という言葉の後ろに増税が隠れている」と批判し、防衛増税方針との整合性を厳しく問う。世界平和統一家庭連合と自民の関係や、トラブルが相次いだマイナンバー問題も取り上げる。
 立民が見据えるのは衆院選だ。このまま不人気の首相と戦う方が有利との声も出る。関係者は「内閣支持率が上向くきっかけは想像できない。首相の手で解散してほしい」と本音を隠さなかった。