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広がるバリアフリー/大活字本、読み上げ機能…/全ての人が読書を楽しんで


広がるバリアフリー/大活字本、読み上げ機能…/全ての人が読書を楽しんで さまざまな布の本(ふきのとう文庫製作)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 全ての人が読書を楽しめる「読書バリアフリー」が広がってきている。大きな文字や布の本、読みやすくなる補助具…。障害者のための特別な物というイメージが強いが、利用してみると実に便利。バリアフリー本を置く図書館は増えており、試しに手に取ってみてはいかがだろう。

 豊島区立中央図書館(東京都)は3月、バリアフリーに配慮した本を集めた「りんごのたな」を新設した。スウェーデンから広がった取り組みで、日本では2019年の読書バリアフリー法制定もあり、少しずつ知られてきている。同館では児童書コーナーの一角にあるが、司書の石川典子さんは「年齢や障害の有無にかかわらず多くの方に使ってほしい」と話す。
 ラインアップは多彩だ。ボタン掛けなどの体験ができる布の本は乳幼児に大人気。点字付き本のほか、大きな文字の「大活字本」は視覚障害者以外にもよく読まれている。読み上げや文字の拡大機能があるデジタル図書「マルチメディアDAISY図書」は、読み書きに困難のある「ディスレクシア」など、さまざまな障害に対応可能。簡単な言葉や写真、絵文字を使った「LLブック」は、外国人や知的障害者が料理や防災などの知識を得るのに役立つという。
 書架に常備する「リーディングトラッカー」は、読みたい文章を強調できる読書補助具。イベントで子どもに配ったところ高齢の家族にも好評だったといい、「想像以上に『読みにくさ』を感じている人は多い」と石川さん。予算など制約は多いが、「ニーズを把握し、サービスを進化させていきたい」と意気込む。
 専修大の野口武悟教授(図書館情報学)によると、バリアフリー図書はおもに視覚障害者のために点訳・音訳などのボランティアの協力によって発展してきたが、種類や部数、作品数が限られるのが長年の課題。ただ高齢化を背景に、大活字本については近年は9割以上の公共図書館に普及し、個人で購入するケースも。ニーズの高まりに伴い、扱う出版社や作品数が増えてきたという。
 「図書館などでバリアフリーな本の存在が知られることで流通が増え、結果的に読みたい本が障害者に届く可能性も高まる。まずは『知る』ことが大事です」
 今年7月、重度の障害のある市川沙央さんの小説「ハンチバック」が芥川賞に選ばれ、健常者を中心とする読書環境の“バリアー”が鋭く指摘されたことも記憶に新しい。
 野口教授は「誰もが加齢や病気で視力が落ちたり本を持てなくなったり、図書館に行けなくなったりする可能性はある。読書バリアフリー推進を『自分事』と捉えることが求められています」としている。

豊島区立中央図書館の「りんごのたな」と、設置を主導した石川典子さん=東京都豊島区

さまざまな布の本(ふきのとう文庫製作)