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「過酷な選択」司法が重視 保守系反発、法改正に難題 性別変更要件 最高裁決定 ■プロセス ■根源 ■受け入れ難い


「過酷な選択」司法が重視 保守系反発、法改正に難題 性別変更要件 最高裁決定 ■プロセス ■根源 ■受け入れ難い 性別変更した人の推移
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 心と体の性が一致しない性同一性障害の人が性別変更する際、事実上手術を強制された性同一性障害特例法の生殖能力要件を最高裁大法廷が25日、違憲とした。身体にメスを入れるのか、諦めるかどうかを裁判官15人が異論なく「過酷な二者択一」と強調。社会の理解や医療の進歩を背景とした画期的な判断だが、変更にはハードルも残る。政界では保守系議員がたちまち反発し、法改正の難題が待ち構える。 (1面に関連)
 「近年、いわゆるパートナーシップ制度が飛躍的に拡大している」。三浦守裁判官は個別意見の中で、性的少数者に対する社会状況の変化を強調した。当事者からは「時代が変わった」と喜びの声が上がった。特例法が国会で審議された2003年当時、主な議題は「子がいない」ことを求めるかどうか。既に日本の大学病院では性別適合手術が実施され、手術要件への異論は少なかったという。
 手術をパートナーと結婚するためのプロセスと捉える人が多く、右肩上がりで性別変更者が増加。14年に世界保健機関(WHO)などが、手術について「不本意な断種の廃絶を求める」との声明を発表すると医療関係者らに衝撃が走った。海外では撤廃が進み、少しずつ潮目が変わった。
 一方、手術をむしろ望む当事者もいる。岡山大病院の難波祐三郎教授は手術前に「もし要件が外れたらどうか」と必ず尋ねており「それでも手術を受ける」と答える人が多数派だ。「いらないものが付いている」「生理が苦痛だ」という苦しみが根源にあるからだ。難波教授は今後も手術をする人は一定数いると見込んだ上で「『自称当事者』が増えることが考えられ、これまで以上に精神科医の役割が重要になる」と話した。
 手術を受けずに性別を変更する人が限られる理由は、もう一つある。今回の決定は「生殖能力をなくす」との規定を違憲としたが「性器が似た外観を備えている」との要件は維持されるからだ。
 一般的に、女性から男性に変更するにはホルモン治療で外観要件を満たすとされるが、男性から女性へのケースでは、ほぼ手術が必要。当事者団体「gid.jp日本性同一性障害と共に生きる人々の会」の副代表倉嶋麻理奈さん(65)は「男性から女性の場合は今回、何の恩恵もない。当事者間で分断が生まれるのでは」と懸念する。
 「あり得ない。男性の体のまま女風呂へ入浴するのを認めるというのか」。25日、最高裁決定を聞いた自民党の保守系議員は憤りを隠さなかった。LGBTなど性的少数者への理解増進法が6月に成立したのを機に、自民の保守系議員は「全ての女性の安心・安全と女子スポーツの公平性等を守る議員連盟」を結成。今回の最高裁の判断を注視してきた。
 山谷えり子共同代表らは9月、当時の斎藤健法相と面会。性別変更の現行要件を維持するよう要請した。面会後には、斎藤氏が「重く受け止める」と答えたと記者団に紹介し「お墨付き」を得たかのようにアピールしていた。
 違憲判断に伴う特例法の見直しに当たり、安倍派の中堅議員は「決定に歯向かうつもりはないが、社会に混乱を起こすのは必至だ。LGBT理解増進法を議論した際、懸念した通りになってきた」と険しい表情。党内には「受け入れ難い」との声が漏れ、法改正実現には曲折が予想される。