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増える重症筋無力症 厚労省指定難病 「怠けている」と誤解も 12年で倍増、現在4万人? 指令を遮断 増える患者


増える重症筋無力症 厚労省指定難病 「怠けている」と誤解も 12年で倍増、現在4万人? 指令を遮断 増える患者 村井弘之氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 筋力を維持できなくなる重症筋無力症(MG)。厚生労働省の指定難病だが、ほとんど知られておらず、周囲から「怠けている」と誤解されることも。同省研究班にも加わる村井弘之国際医療福祉大教授(脳神経内科)は「診断がつかず病院をさまよう隠れ患者も多い」と現状を訴える。
 MGは免疫が自分の体を攻撃する自己免疫疾患のうち脳神経系に起きるものの一つ。具体的には末梢(まっしょう)神経と筋肉の間の情報伝達路を自己抗体がふさぎ脳の指令が筋肉に伝わらなくなる。
 典型的な症状はまぶたが下がる「眼瞼(がんけん)下垂」や二重に見える「複視」。ほかにも手足の脱力や全身倦怠(けんたい)、嚥下(えんげ)障害やろれつが回らない構音障害、鼻声などさまざま。目の症状だけの眼筋型が20%で、残りが全身型。
 最初は筋肉に力が入ってもそれを維持できない「易疲労(いひろう)性」も特徴。朝は軽い症状が夕方には重くなる「日内変動」が起き、「さっきはできたのに…」と周囲に思われがちだ。長電話の間に話せなくなることすらある。
 患者数は2018年の全国調査で2万9210人。06年の調査では1万5100人で、12年でほぼ倍増した。村井さんは「今では4万人程度に達したのでは」と推定する。
 中には呼吸筋のまひで人工呼吸器が必要になる重症の人もいる。「昔はまさに重症疾患で、死亡率30%に達した」と村井さん。しかし今、亡くなる人はほとんどいない。状況を変えたのが1970年代に使われ出したステロイド。その大量服用が生存率を劇的に上げた。ただ一方で、糖尿病や高血圧、骨粗しょう症などの疾患のリスクを高めたり、服用をやめられない人が出たりと、問題も多かった。
 今では治療薬も増え、免疫抑制剤や免疫グロブリン製剤、血漿(けっしょう)交換療法を当初から併用し、ステロイドを減らすことが標準治療になった。難治症例には分子標的薬も使えるようになり、患者の生活の質を保ちつつ治療できるようになった。
 ただ、NPO法人「筋無力症患者会」の恒川礼子理事長は「ステロイドの大量投与を受けている人はまだ多い」と指摘する。村井さんも「専門の脳神経内科医でも治療法の進歩について行けない人はいる」と認める。
 患者の多くが最初、専門外の眼科や内科にかかることも診断遅れにつながり、症状が軽く見過ごされることも。恒川さんは40歳すぎに診断されたが「眠そうな目をしているとよく言われた子どもの頃に既に発症していたかも」と振り返る。
 血液検査で抗体を調べれば、多くの患者で診断はつく。「眼瞼下垂の手術後にMGと分かることもある。医師は診察の際、MGの発症も疑って」と村井さん。
 ほとんどの患者は健康そうに見えるが、治療入院を繰り返し、体調を整えながら日々の仕事に臨む。4人に1人が失職を経験、多くが収入減に直面するとの報告も。患者会に寄せられる相談も仕事の悩みや周囲の理解、治療法への不安など幅広い。恒川さんは「理解されないことが悩みを生む。一人でも多くの人にこの病気を知ってほしい」と訴えている。