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67歳漫画家デビュー 挑戦20年/ハン角斉さん「人間の本質描きたい」/整骨院経営と二足のわらじ


67歳漫画家デビュー 挑戦20年/ハン角斉さん「人間の本質描きたい」/整骨院経営と二足のわらじ ハン角斉さんが描く漫画のキャラクター
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 北海道幕別町に、整骨院を営みながら単行本デビューした67歳の新人漫画家がいる。20年近く賞選考に落ち続けたハン角斉(本名三浦吉文)さん。細やかな筆遣いと、社会の不条理さがにじみ出る物語に注目が集まり、昨年、漫画家になる夢をかなえた。ペンネームは「ばからしい」を意味する北海道の方言「はんかくさい」に由来し、「人間の本質的な部分を描き続けたい」と語る。
 小さい頃から絵を描くのが好きで、小学1年で漫画家になろうと決めたが、どうしても誰かの絵に似てしまい、個性が足りないと挫折。その後は柔道整復師の資格を取得し、夢から遠ざかった。
 再び向き合うようになったのは35歳の時。美しい筆致で有名な漫画家池上遼一さんの若手時代の作品を読み「下手だなと思った。一生懸命に描き続けたからこそ、あれだけうまくなったんだ」。少しずつ描き始め、45歳からは本格的に制作するようになった。応募した賞では低評価が続いたものの、描くたびに技術の上達や面白みを感じた。
 2019年に制作した作品は入賞こそ逃したが、奨励金を獲得。「眠りに就く時…」とのタイトルで、もてない男性が女性と結ばれたと思いきや、高齢男性が死ぬ直前に見た夢だったという内容。20年には別の作品も評価され、短編集の単行本を出すことが決まった。「生きてきた証しだ」と出版の喜びを振り返る。
 整骨院の施術の合間や、帰宅後に明け方まで描く。コンピューターを使わずに手描きで、背景には細かい線がびっしり。1こまに30時間かかったこともある。オリジナリティーにこだわり、キャラクターの表情は何度も修正。「それが『味』を生み出すんだと思う」
 単行本デビューから1年近くたつが、いまだに実感がないというハンさん。「夢をかなえたと言われるが、好きで没頭していたら、いつの間にか漫画家になっていた感覚」とほほ笑む。これからも描き続ける。