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武力行使の一体化懸念 「密室協議」野党は批判 防衛装備品輸出緩和 説明欠き政策転換の恐れ 「平和に貢献」 対中抑止 国会軽視


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 自民、公明両党が防衛装備品の輸出ルール見直しを巡り、地対空ミサイルなど防御目的の武器の輸出解禁を議論する方向で検討に入った狙いは、インド太平洋地域の同志国の防衛能力向上だ。中国への対抗が念頭にある。一方、戦闘機を撃墜する装備を輸出し使用されれば戦闘への加担と見なされ、憲法が禁じる他国の武力行使との一体化となる懸念もある。国会での議論はなく、野党は「密室協議」と批判する。(1面に関連)
 「防衛装備品の移転を通じて、同盟国、同志国と協力しながら地域の平和と安定に貢献する。こうした取り組みが重要だ」。岸田文雄首相は1日の参院予算委員会で、輸出ルール緩和の意義をただす共産党の山添拓氏に対し、こう強調した。
 政府は、侵略された国の支援や、日本の安全保障環境の改善に向け、現在の防衛装備移転三原則や運用指針の改定を検討している。自公の実務者も4月にルール緩和に関する議論に着手。7月に論点をまとめた。ただ関係の深い一部の国に対し、地対空ミサイルや護衛艦の輸出を検討するとは明記しなかった。
 自公がここに来て、防空や海洋安保に資する装備の輸出解禁を目指すのは、東・南シナ海で海洋進出を強める中国の動きが背景にある。
 ロシアによるウクライナ侵攻では、欧米各国がウクライナの要請に応じ地対空ミサイルシステム「パトリオット」を提供したが、日本はルール上、防弾チョッキなどの提供にとどまった。
 ウクライナ侵攻のような事態がインド太平洋地域で起きる場合に備え、何ができるか―。より防衛に資する装備の輸出を可能にすれば、輸出先国の安全保障能力を高めるとともに、協力関係を深化させ対中抑止力の向上を図れるというわけだ。
 輸出を解禁する防空システムは、戦闘機やミサイルへの対処が可能な陸上自衛隊の「03式中距離地対空誘導弾」(中SAM)などを想定。海洋安保に資する装備としては護衛艦や哨戒艦、哨戒機の輸出を念頭に置く。
 現在、輸出が認められる救難や輸送などの非戦闘5分野には、地雷処理とドローン対処、教育訓練を追加する方向だ。
 だが航空機や艦船を攻撃する武器を輸出して使用された場合、日本が戦闘に加担していると見なされかねず、日本周辺の安保環境に悪影響を及ぼす可能性がある。武力行使との一体化に抵触する恐れに加え、輸出した装備の目的外使用や第三国への流出などにより、国際紛争の助長につながるリスクもある。
 装備品の輸出可否の判断に国会承認は不要なのが実態とはいえ、輸出解禁は大きな政策転換だ。国会に活発な論議や関与を求める姿勢は政府、自公に見られない。
 1日の予算委で「与党の議論の行方を注視して判断したい」との答弁を繰り返した首相。山添氏は強い口調で非難した。「与党で協議中だとして語らない。国会軽視だ」
 自民、公明両党の防衛装備品輸出ルール見直しを巡る実務者が、防空ミサイルの輸出など大幅な制限緩和を検討していることが判明した。政府が過去に他国からのニーズがあったと説明した内容で、与党案がまとまれば世論や国会への説明を欠いたまま閣議決定などで解禁が決まる恐れがある。政府、与党は政策転換の前に理解を得る努力が求められる。
 政府は昨年12月に決めた安全保障関連3文書で、望ましい安保環境を築く上で装備品輸出を「重要な政策的手段」と位置付け、ルール見直しの検討を明記。国内の防衛産業を強化するため、海外への販路拡大も掲げた。
 自公実務者はこれを受け、今年4月に協議を開始。ただ、議論の中心は非戦闘目的の装備に武器が搭載されていても輸出を認めるかどうかや、国際共同開発する装備の第三国輸出の可否だった。
 自公は防空ミサイルに加え、海洋安保に資するとして護衛艦や哨戒機の輸出も検討する方向で、唐突感は否めない。
 岸田文雄首相はこれまで、見直しの方向性を国会などで問われても「与党の議論を注視した上で判断したい」と説明を避けてきた。そのような中、一層の緩和策が浮上した形で、国民が納得できるのかは疑問が残る。
 岸田政権が唐突な政策決定で国民を置き去りにするのは、世論調査で不評の所得税減税と同様だ。見直しが必要と考えるのなら、国会や記者会見で公明正大に訴え、議論するのが先ではないか。