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子の手汗 軽視しないで 皮膚科医・藤本智子さんに聞く 日常生活にさまざまな支障


子の手汗 軽視しないで 皮膚科医・藤本智子さんに聞く 日常生活にさまざまな支障 手掌多汗症を発症した人の手のひら。触った物がぬれるほどの汗が出る
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 手のひらに大量の汗をかき、日常生活が困難になる「手掌多汗症(しゅしょうたかんしょう)」。幼少期から思春期にかけての発症が多く、学業にも多大な影響を及ぼすが、適切な治療を受けている子は少ないという。皮膚科医の藤本智子さんは「最近は保険適用の塗り薬も登場し、治療の幅が広がっている。たかが手汗と軽視せず、病院で相談してほしい」と話す。
 明らかな原因がないのに、体の一部に大量の汗をかく「原発性局所多汗症」のうち、手のひらに発症するものを手掌多汗症といいます。脇や顔などの多汗症に比べて発症が早く、平均13・8歳、早いと就学前から症状を自覚する子もいます。大人になっても症状が続く人も多く、2009年の調査では、日本人の約19人に1人が発症していると報告されています。
 日本皮膚科学会の診療ガイドラインでは、原因不明の手汗が6カ月以上続いている人で、(1)最初の発症が25歳以下(2)左右の手のひらに汗をかく(3)睡眠中は発汗が止まっている(4)週に1回以上、症状がある(5)家族に同じ症状の人がいる(6)手汗のために日常生活に支障をきたしている―の6項目のうち、2項目以上が当てはまる場合に、手掌多汗症と診断されます。
 「手汗が多いだけ」と軽視されがちですが、重症になると手のひらからしたたり落ちるほどの汗が出ることも。身の回りの紙製品や電子機器がぬれて駄目になってしまうなど、日常生活にさまざまな支障をきたします。
 子どもの場合、学校生活で苦労することも多いようです。ノートやテスト用紙がふやけて破れたり、体育の授業で鉄棒が滑ってうまく握れなかったり。手汗が気になって運動系の部活を諦める子や、親しい人間関係を避けてしまう子もいます。
 子どもの生活にこれだけ影響する疾患にもかかわらず、小さい頃から治療に結びついている例は少ないです。私が診療した患者さんの中には、何年も悩んだ末、大人になってやっと受診できたという人が大勢います。
 背景には、手汗が多くても病院に行く発想がない、親にも恥ずかしくて話せない、話しても理解されない、などの事情があります。「子どもの手汗が多く、生活しにくそう」と感じることがあれば、本人と相談して受診を検討してください。
 治療法は大きく分けて汗を抑える塗り薬、ボツリヌス毒素注射などの内科的治療、外科手術の3種類です。今年6月には日本で初めて保険適用の塗り薬が登場し、治療の幅が広がりました。
 ボツリヌス毒素注射や外科手術は塗り薬に比べて汗を抑える効果が長続きしますが、その分、体への負担が大きいです。必ず皮膚科専門医と相談して、適した治療法を選択してください。 (談)

 ふじもと・ともこ 皮膚科医、池袋西口ふくろう皮膚科クリニック院長。浜松医科大医学部卒。日本皮膚科学会による多汗症の診療ガイドライン作成にも携わる。