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陳情「全て審議」は7市町 本会議へのハードルに差 「住民目線」どう向き合う? 識者の見解は


陳情「全て審議」は7市町 本会議へのハードルに差 「住民目線」どう向き合う? 識者の見解は 那覇市議会(資料写真)
この記事を書いた人 Avatar photo 古川 峻

 住民が意見や要望を行政運営に反映させようと議会に提出する陳情について、議会側の取り決めによって扱われ方が異なり、採択率にも影響していることが琉球新報が県内市町村の各議会事務局に実施したアンケート調査で分かった。本島中部在住の男性から議会ごとに違いがあることについて疑問が寄せられ、書面などで議会の対応を調べた。

 男性は、暮らしに関する政策実現を求める陳情を在住自治体のほか、周辺自治体の議会にも提出した。実現が必要と議会としても判断したことを意味する採択に至った議会がある一方、一度も審議されずに取り扱いが終わった議会もあった。

「中身は同じ。度が過ぎた訴えでもない。審議の結果、不採択ならまだ分かるが、なぜ議会ごとに違いがあるのか」。陳情の訴えは予算化を伴うような具体例ではなく、理念の実現を求めたもの。他の地域や県外の自治体議会でも採択例も多い内容だった。

 受理された陳情は通常、会派代表者らで構成する議会運営委員会(議運)に諮られる。そこから全議員による本会議を通じて、専門分野を所管する議員(委員)でつくる常任委員会に審査を付託。審査後、再び本会議で採択か不採択を決める。本紙の各市町村担当記者の取材でもこの流れは多くで共通していた。ただ、常任委に付託して実質審理するかどうかの判断や過程に違いがある。

 アンケートでは、議運に諮るかを議長で判断し、諮らない陳情は議員に陳情書を配布することで処理を終えている例や議運に上げられても議運メンバーの全会一致がなければ審議しないことにしている議会があった。
 このようなハードルを設けている議会では、常任委への付託率が当然低く、本会議で採択される割合を示す採択率も低い傾向があった。
 一方、原則的に全ての陳情を審議することにしているのは那覇、浦添、宮古島、南城、与那原、八重瀬、南風原の7市町。採択率も高い傾向がある。

 アンケートは2022年度に各議会で受理した(1)請願、陳情の件数(2)陳情の常任委員会への付託件数(3)委員会での採択件数(4)本会議での採択件数―について聞き、書面などで回答を得た。また議会基本条例での陳情に関する規定の有無も聞いた。
 常任委員会を設置していないなど、審査過程を比較できない離島を中心とした12町村議会はまとめから除いている。


 【用語:陳情と請願】市民が自らの意見や要望を国や地方公共団体に伝えるための方法の一つ。請願権は憲法16条で国民の権利として認められている。地方議会への請願は、地方自治法120条に基づいて各議会の会議規則に取り扱いが規定されており、提出には紹介議員を必要とする。審議を経て採択されれば、議会の意思と同様になり、首長部局に送られるほか、国や都道府県への意見書を出すことで提出者の要望の実現を議会として促すこともある。陳情も請願に準じるが、紹介議員を必要とせず、誰でも提出が可能。

委員会付託90%、7市町 10%以下も7市町村

 議会ごとに異なる会議規則や申し合わせ、慣例を重ねて運用している事例もあり、議会ごとの対応や運用を項目立てて区分けすることは難しいが、審議されているかどうかを示す委員会付託率や本会議で採択された割合を示す採択率を見ると、陳情の取り扱い方法の影響が数字で見て取れる。例外もあるが、審議入りのハードルが高い議会ではいずれの割合も低く、住民らの意見が反映されにくい状況がある。
 提出された陳情の数で常任委員会に付託された件数を割った「委員会付託率」は、審議入りしたかどうかを示す。

 付託率が10%以下は石垣、沖縄、本部、金武、読谷、竹富、伊江の7市町村。石垣市と竹富町では議会運営委員会(議運)に諮る前に議長判断でほとんどの陳情を議員配布し、審議入りしなかった。
 両市町では会議規則の規定で「議長が必要と認めるもの」以外は議員配布するとしている。沖縄市も同様の会議規則の条文があることに加え、申し合わせ事項には議運での全会一致が付託の条件にされていた。

 例外もある。宜野湾や名護、豊見城、糸満の4市は議運での全会一致を原則としていたが、付託率は57~72%だった。
 担当記者らの日常の取材によると、議運で取り扱う際に委員会に付託することを前提に個別判断していることも影響しているとみられる。

 付託率が90%以上だったのは、那覇、浦添、宮古島、南城、与那原、八重瀬、南風原の7市町だった。
 委員会付託を原則としている那覇市は、陳情に関して具体的に取り扱いを定めた要綱がある。誹謗中傷などに当てはまらない限り、委員会に付託する。

 議会基本条例を定めた自治体議会では陳情を住民からの政策提言と位置づけ、取り扱いを明記していることが多い。
 浦添市は会議規則に基づく「陳情書の取扱いに関する規程」、宮古島市は議員間で「議会運営に関する申し合わせ事項」があり、委員会付託を原則としている。

 付託率が90%未満50%以上が宜野湾、名護、糸満、豊見城、うるま、北谷、中城の7市町村。
 50%未満10%以上は国頭、大宜味、今帰仁、恩納、嘉手納、北中城、西原、久米島の8町村だった。
 採択率は60%以上が3市、60%未満40%以上が5市町、40%未満10%以上が15市町村。10%未満が6市町村だった。

議員を介する「請願」件数は? 0件が28市町村 最多は石垣6件

 2022年度の請願の提出件数は、28市町村が0だった。提出のあった13市町村でも10市町村が3件以下の受理にとどまった。最多は石垣市の6件だった。識者は「請願権は市民の政治参加の最たる例だ。もっと活用されるべきだ」と指摘した。

 石垣市は22年度、陳情の付託率は低かったが、請願については本年度、既に4件の請願が提出され、そのうち3件が採択された。桴海地区自治会から情報格差を解消するための請願が出されるなど、地域に根差した要望も多いという。同市議会事務局は「議員が市民と連携して地域の声をすくい上げる例が多い」と話した。
 石垣市に次いで22年度の請願受理が多かったのはうるま市と名護市の5件。
 うるま市では野党市議の紹介で陸上自衛隊勝連分屯地へのミサイルの配備に関する請願を2月に受理した。不採択となったが、紹介議員の伊盛サチ子氏(共産)は「議会でも問題を周知させたかった。市民の声を議会に投げかけることはできた」と意義を強調した。

離島の傾向 

 宮古島市や石垣市を除いた離島町村は、請願、陳情の採択数が少ない傾向があった。
 議員と住民の距離感が近いため、請願や陳情といった制度利用ではなく、議員に直接意見や要望などを伝えることが多いためとみられる。
 離島自治体で提出される陳情は、島外から提出された理念への賛同を求めるものが多く、各自治体の政策とは直接的な関係がないことも採択数に影響しているという。
 各町村議会で構成する県町村議会議長会に集まる処理に関する情報を参考に個別に判断することもある。粟国村議会事務局の担当者は「村外からのいろいろな陳情があるが、調査しきれないため、町村議長会などを通じて他の町村の動向を見ることもある」と話した。

議員配布でも発議の可能性 県町村議会議長会の金城康次事務局長の話

 県町村議会議長会の金城康次事務局長の話 各議会は会議規則を定めなければならず、全国町村議長会で示されている標準会議規則を参考に制定されているが、請願、陳情の具体的な取り扱いは各議会に委ねられている。
 採択された陳情はその内容実現に議会は取り組むことになる。意見書や決議を行うことで、議会がアクションを起こすことがある。執行機関への法的拘束力はないが、政治拘束力が生じるともされる。
 二元代表制の下、議決権がある議会の意向は無視できないだろう。
 議会は地域課題や市民の福祉向上などについて話し合う場だ。本会議で採択されなかったとしても、委員会などで協議することには意義がある。陳情が議員配布となったとしても、各議員が持ち帰り、意見書や決議案などを発議することにつながる可能性もある。

【識者談話 仲地博氏(沖縄大学名誉教授)】
政治参加の機会、強化を

今春の統一地方選で、全国16町村で住民の代表者を決める三つの選挙(道県議選、町村長選、議員選)が無投票となる「トリプル無投票」が起きた。また議員選の定員割れが20町村あった。議員のなり手不足がはなはだしく、議会制民主主義は危機的な状況だ。議会が存在意義を自ら示し、市民からの信頼を得ることができていない。この課題の解決のため、請願権はもっと利用されてよい。
 請願権は、憲法で保障された基本的人権であるが、ともすれば忘れられがちである。住民の参政権の一種だと積極的に理解されるべきだろう。
 議会での審議結果や処理の経過、結果を住民に公表することが大事だ。議会への信頼感が高まり、住民は政治や行政に参加し、議会や行政に一石を投じた実感が得られるであろう。さまざまな議会改革が提案されているが、請願権の活用は地方自治法の範囲内で最も手っ取り早くできる改革と言える。
 県内で14市町村が議会基本条例を制定している。議会基本条例では請願・陳情は市民の政策提言と位置づけられることが多い。提出者は委員会などで意見を陳述する機会もある。議員にとっても住民目線で地域課題を把握するチャンスにもなる。議会基本条例はあるが、請願権の規定がない自治体もある。議会は請願権の活用により、住民との関係強化と政策形成機能の強化を試みるべきだ。(行政法)


【記者解説】
市民の声、どう向き合う

 県内の市町村議会に出された陳情は、審議されない場合は少なくとも議員配布されている。これを基に議員提案の意見書や決議につながる可能性はある。なおざりな処理の例は見当たらなかったが、取り扱いや判断が大きく異なり、採択率にも影響しているとみられる。住民から届けられる声をどのように扱うかは居住地域によってばらつきが顕著だ。
 審議するには議会運営委員会での全会一致という高いハードルを設けている議会では、古くからの慣習を継続しているとみられる。政策提言と位置づけて審議入りを原則とし、審査過程や結果も公表するところとの差は大きい。他議会での処理状況を知る機会がないことも慣習の継続に影響しているとみられる。議員や議会事務局への取材では「自分たちのやり方が普通だと思っていた」との声があった。
 議会への信頼、期待があるからこその陳情提出である。対応について各議会で検証する余地がある。陳情それぞれが求める政策実現は別にしても、陳情自体にどのように向き合うか、市民の政治参加促進に向けた議会改革にも直結する。
  (古川峻)