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長寿社会の行方 不安多く尻すぼみか 菅原文子さんコラム<美と宝の島を愛し>


長寿社会の行方 不安多く尻すぼみか 菅原文子さんコラム<美と宝の島を愛し> 菅原文子
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 師走の声を聞くと、賀状欠礼のはがきが届く。今年は百歳を超える近親者が大往生、という知らせが3通もあり驚いた。人生百年時代、これはやはり本当か。だが驚異の長寿時代もこれから先は尻すぼみ、つかの間の長寿バブルが起きているだけではないのか。高齢者医療費は財政の負担、安楽死も選択肢的な内容のエッセーを書く医師もいるが、ご安心をと言いたい。

 日本が世界でもまれな長寿国、世界ランキング1位の国になれたのはなぜか。80年近く平和を守ることで経済発展を遂げ、国民が自信を持ち、平穏な暮らしを維持できた時代に生活の基盤を作った世代が今の長寿者たちだ。2位がスイスであることも、平和と経済が長寿の要因であることを裏付ける。3位は韓国。キムチなどの発酵食品が健康に良いことと、経済発展が著しく、韓国人と話すと賃金は日本より高い、と自信を持っている。韓流ドラマ、ダンス&コーラスグループは日本でも大人気だ。

 現在また将来に明るい見通しのある社会は、健康長寿に良いに決まっている。日本の場合、百歳長寿者は大正デモクラシー時代に生を受け、原発も新幹線も高速道路もなく、不便この上ないが、歩く速度で人の暮らしが動いていた。年賀欠礼はがきの大往生のどなたも、大都市居住者ではなく、地方、それも僻遠(へきえん)の地にお住まいなのは偶然か。

 現今の日本を見れば、軍事費増強、酷税に、さらに上乗せの増税、物価高、社会保険料の重い負担など、ストレスと不安だらけ、長寿社会を育てる要素は全くない。フランスでは医療費の自己負担額はとても低く、学費も大学までは授業料が無料だ。法律を作り、国民にそれを守らせる政治と政治家の質の低下が、政治不信、内閣支持率低迷の要因だが、自民党各派閥の政治資金パーティーで集めた参加費から、同党議員にかなりの額が裏で環流され、闇に消えていたとの報道が出た。世論が怒りで沸騰している。国際的な評価も政治に関してはこれから下がる一方だろう。

 国内外の政治への信頼は、ばらまく金では買えない。犯罪の温床も様変わりし、社会が荒れている。内政も問題山積の中、岸田文雄首相が代理の出席も可能な「首脳級」クラスの国際会議に、わざわざ数日をかけて出向いた。支持率低迷の厳しい日本から逃げ出し、政府専用機で仲間内に囲まれ、ぜいたくなホッとしたひとときを持ちたかったように見えた。

 平和が健康寿命の元、と書いたが、鎖国戦略で平和を保った江戸時代の平均寿命は40歳くらい、と言われている。これは乳幼児の死亡率が高かったための平均の数字で、今年の大河ドラマの主人公、徳川家康は75歳で亡くなっている。白隠禅師という傑物仏教僧は83歳で大往生、白隠禅師と入れ替わるような年に生まれた俳人小林一茶は、貧乏暮らしをしながら65歳まで生きた。

 明治維新政府の洗脳教育を頭から追い払って江戸時代を見ると、相当な自由があったことが一茶の句からも分かる。一茶の句「鼻打ちや寝そべって見る加賀の守」は、春になって固い土をすきやくわで打つ農民の辛苦の姿を、豪華なかごの中から眺める大名行列を冷めた目で詠んでいる。政府専用機のデラックスシートに身を沈める総理や側近の姿と、加賀の守の姿が重なって見えた。

(辺野古基金共同代表)