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裏金温床、実態解明へ 政治家関与が焦点 立件に「客観証拠」の壁 安倍・二階派家宅捜索


裏金温床、実態解明へ 政治家関与が焦点 立件に「客観証拠」の壁 安倍・二階派家宅捜索 家宅捜索のため自民党二階派(志帥会)の事務所に向かう東京地検特捜部の係官ら=19日午前10時、東京都千代田区
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 自民党派閥の政治資金パーティーを舞台にした裏金疑惑に19日、東京地検特捜部による本格捜査のメスが入った。標的となったのは、不記載の金額が大きく、組織ぐるみの違法行為の疑いがある安倍派(清和政策研究会)と二階派(志帥会)。政治資金パーティーを隠れみのにした裏金づくりはいつ始まり、政治家は関与したのか―。検察は過去最大級の態勢を敷き、不正の温床の実態解明に乗り出した。 (1面に関連)
 19日午前10時ごろ、両派の事務所に特捜部の係官が続々と家宅捜索に入った。関係者によると特捜部は今回、全国から異例の規模となる50人前後の応援検事を集めた。
 捜査の端緒は、昨年11月以降に断続的に出された大学教授による刑事告発だった。告発容疑は、安倍派など5派閥がパーティー収入を過少に記載したとする政治資金規正法違反。「単純な記載ミスだから、訂正さえすれば問題ない」(派閥幹部)との楽観論が党内の一部で広がる中、特捜部は水面下で議員秘書らへの事情聴取を加速した。
 任意提出されたパーティー券の販売記録や事務所の会計帳簿、通帳などを捜査する中で、還流による裏金づくりが浮かび上がった。
 対象議員は安倍派の実力者「5人組」全員を含む数十人に拡大。検察関係者の一人が「清和だけむちゃくちゃ」とあきれるように、収支報告書に記載されていない裏金の総額は5年間で5億円ほどに膨れ上がった。最も多い議員で5千万円超だったとされる。

公然の秘密

 安倍派の還流疑惑は、実は20年近く前にも一度話題になったことがある。森喜朗元首相が会長だった2004年に開催した政治資金パーティーでも同様の問題が取り沙汰された。森派の事務局は当時「議員が受け取った金は党から派閥を経由した『政策活動費』で、記載の必要はない」などと説明していた。
 約20年前に安倍派議員の事務所に入った元秘書は「当時からキックバック(還流)が当たり前のように行われていた」と告白。党内のベテラン秘書の間では半ば公然の秘密だった可能性がある。

線引き

 自民党の危機とも言われる最大派閥への家宅捜索。特捜部は、不記載の金額が高いと指摘される議員を中心に任意の事情聴取も始めたが、政治家本人の立件には大きな壁が立ちはだかる。会計責任者との共謀があったと立証するには、指示や報告、了承を裏付けるメモや手帳といった客観証拠が欠かせないからだ。
 検事時代、旧橋本派(平成研究会、現茂木派)の会長代理だった村岡兼造元官房長官が在宅起訴され、有罪が確定した日本歯科医師連盟の献金隠し事件に携わった若狭勝弁護士は「特捜部は歴代事務総長の議員を狙っていると思うが、会計責任者の供述だけで足りるとは限らない」と指摘する。村岡氏は、元事務局長の証言が「不自然で変遷している」と判断され、一審は無罪だった。
 立件の可否を検討するに当たり、不記載の金額もポイントになる。一つの指標になるのが、薗浦健太郎元衆院議員による昨年の政治資金規正法違反事件だ。元秘書2人と共謀して政治資金パーティーの収入などを正確に記載しなかったとして、罰金刑が確定。立件額は約4600万円だった。
 法務省幹部は今後の展開をこう占う。「金額も態様もそれぞれ違う。過去の実務とのバランスにも配慮しながら、どこでどう線引きするのか、大変な捜査になる」