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原発大国の思惑反映 日本、原発成果文書に同調   


原発大国の思惑反映 日本、原発成果文書に同調    世界の大型原発(第3世代炉)の建設状況
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする手段の一つとして原発が成果文書に盛り込まれた。中国やロシアが存在感を増し、米国やフランスが危機感を抱く構図が透ける。海外に活路を求める日本も同調したが、環境団体は、原発は気候変動対策にならないと批判する。

プッシュ
 「温室ガス削減に向けて再生可能エネルギー、原子力、炭素回収・貯留技術などを加速させる」。COP28の成果文書は、原発を脱炭素の手段の一つと初めて明記した。日本政府関係者は「米仏が強くプッシュし、議長国のアラブ首長国連邦(UAE)が賛成したことが寄与した」と明かす。会期中には米国が主導し、2050年までに原発の設備容量を20年比で3倍にする宣言も打ち出した。
 成果文書には記載されなかったが、日本や原発のないポーランド、産油国UAEなど計23カ国が賛同した。

焦り
 背景にあるのが中国とロシアの動きだ。海外電力調査会によると、22年末時点に世界で建設・計画中の第3世代炉と呼ばれる大型原発は102基。そのうち中国は独自開発の「華竜1号」を筆頭に最多の46基を手がける。30基で続くロシアは大半が海外向けだ。
 核燃料製造の要のウラン濃縮は、ロシア企業が世界シェアのほぼ半分を占める。ウクライナ侵攻を念頭に、日本や欧米は「ロシア依存度を減らさなければならない」(政府関係者)と警戒。
 笹川平和財団の小林祐喜研究員は「米国を中心にロシアや中国の市場支配を崩し、もう一度、主導権を取りたいという焦りの側面が強い」と指摘する。

もろさ
 日本は東京電力福島第1原発事故後、国民の不信が高まり新増設の動きが止まった。政府や経済界は海外での原発復権の動きを歓迎する。
 ただ再生可能エネルギーが急速に普及して発電コストが下がる一方で、原発は建設コストが重荷となりつつある。日立製作所は20年、英国での新設計画から撤退。米国でも、次世代型原発「小型モジュール炉(SMR)」の建設を目指していた米企業ニュースケール・パワーが23年11月、計画中止を発表した。
 環境団体は、原発は建設期間が長く、短期的には温室ガスの排出抑制にはつながりにくいと指摘する。気候変動の影響も懸念材料だ。
 米国・アイオワ州では20年、暴風で原発が緊急停止し、冷却塔が損傷した。フランスでは22年、熱波で河川の水温が上昇し、原子炉を冷却するための取水や排水が制限された。NPO法人の原子力資料情報室の松久保肇事務局長は「原発が気候変動に脆弱(ぜいじゃく)なのは明らかだ」と指摘している。