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能登半島地震/行政の想定 甘く /備蓄 初日に払底 /コロナ対策やトイレ切実   


能登半島地震/行政の想定 甘く /備蓄 初日に払底 /コロナ対策やトイレ切実    地震による死者(6日午後2時現在)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 犠牲者が120人を超えた能登半島地震で、被災者支援が立ち遅れている。6日午後時点で約3万700人が石川県内の避難所に身を寄せるが、厳しい寒さをしのぐ暖房器具などが不足し、備蓄物資が初日に底をついた自治体も。断水でトイレや風呂は満足に使えず、感染症対策もままならない。石川県が「災害度は低い」とした26年前の地震被害の想定は更新されておらず、行政の対応の甘さに批判が上がる。 (1面に関連)

「余裕」のはずが
 「暖を取る手段を、ということで暖房器具などを準備しているが、燃料の確保など心配な部分はある」。6日、輪島市の担当者は今後への不安を口にした。能登半島は厳寒期を迎え、避難者からは「毛布が足りない」との声が上がるものの、十分な量が確保できていない。
 食料は自衛隊の輸送などで次第に行き渡り始めているが、当初の備蓄は「初日に吐き出してしまった」と坂口茂市長。以前に起きた地震に基づいて余裕を持たせていたはずが「これだけ大きな被害は想定していなかった」と釈明、元日の発生で観光や帰省客が多かった影響も理由に挙げた。
 自衛隊の輸送が目に見えて本格化したのは、4日に隊員が大幅に増員されて以降だ。
 珠洲市の避難所では5日にようやく支援物資が届いたところも。自衛隊関係者は「土砂崩れで車両が入れず、隊員が水や食料を背負って人海戦術で運ぶ場所もある」と語る。

手洗いもできず
 衛生面の懸念も大きい。約600人がいる七尾市矢田郷地区の避難所では、大会議室や多目的ホールなどを利用して世帯ごとに間隔を空けるほか、食事の際の換気やマスク着用の徹底など対策を取る。ただ医師や保健師は訪問しているものの、避難者が多く、健康状態をきちんと把握できる状況ではない。避難生活を送る女性(68)は、入浴や歯磨きどころか手を洗うことも十分にはできていないといい「夫に持病があり、もし感染症になったら医者に診てもらえるのか不安だ」と吐露する。実際、6日には穴水町の避難所で3人の新型コロナウイルス感染が確認された。
 トイレも切実な問題だ。避難所となっている輪島市立鳳至(ふげし)小の体育館では地震直後、中にあるトイレを全員で使い、悪臭がひどかった。数日後、仮設トイレが計5台設置されたが、避難者は400~600人に上る。運営する市職員は「外で車中泊している人も多く利用している。数はもっとほしい」と訴える。

予測は死者7人
 石川県が策定した能登半島沖の断層による地震被害想定は1998年に公表された後、見直されてこなかった。
 想定では、マグニチュード(M)7・0の地震が発生するが「ごく局地的な災害で、災害度は低い」としている。具体的な被害は県内全体で死者7人、建物全壊120棟、避難者2781人など、今回の被害を大幅に下回る予測が並ぶ。市町の地域防災計画も、この想定に基づいて作られていた。2007年に起きた能登半島地震や断層の研究が進んだことを受け、専門家からは見直しを求める声が繰り返し上がっていたが、県の反応は鈍かった。県防災会議の震災対策部会で委員を務める金沢大の平松良浩教授(地震学)は「喫緊の課題だったが、県の腰が重かった。今の知事になって動き始めたが、間に合わなかった」と残念がった。

新型コロナウイルス感染が確認された石川県穴水町の避難所に入る医師ら=6日午後3時35分