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子育ての「壁」なくそう/待機児童減も、構造変わらず/保護者の声集めた本 話題に


子育ての「壁」なくそう/待機児童減も、構造変わらず/保護者の声集めた本 話題に 「虐待禁止条例」改正案が取り下げられた埼玉県議会の本会議=さいたま市
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 希望しても認可保育所などを利用できない待機児童の保護者らを調査した書籍「母の壁」(岩波書店)が話題だ。刊行後4カ月で重版決定。待機児童数は激減したとされるが、著者の1人で甲南大の前田正子教授は「子育て環境は良くなっていない。背後にある社会構造を直視しなければ少子化は止まらない」と話す。
 待機児童が社会問題化したのは2016年。匿名ブログの「保育園落ちた日本死ね」と題した文章がきっかけだった。「どうすんだよ私活躍出来ねーじゃねーか。子供を産んで子育てして社会に出て働いて税金納めてやるって言ってるのに」
 こども家庭庁によると、待機児童数の近年のピークは17年の約2万6千人。前田さんらによる調査も同年、ある市で認可保育園に入所申請した全2203世帯に実施された。入所できなかったのは3割強。〈保育所に入れなかったので仕事を辞めました〉…。「自由記述欄に多くの母親がびっしりと生きづらさと苦悩をつづっていた。同じ母親として(社会に)怒りを覚えた」(前田さん)
 浮き彫りになったのは、母親の人生を取り巻く三つの「壁」。一つ目が保育施設に入れるかどうかの「保育の壁」だ。
 こども家庭庁は昨年4月1日時点で、待機児童数は過去最少の2680人になったと発表。しかし、厚生労働省の定義では、保護者が求職活動を断念したり、特定の保育所だけを希望したりした場合、待機児童数に含まない。認可保育園に申請して入れなかった全ての児童は「保留児童」と区分されている。両方の児童数を公表している横浜市によると、昨年4月1日時点で市内の待機児童は10人だったが、育休延長希望を除いた保留児童は1755人だった。
 「22年の全国の保留児童は推計で約6万5千人。誰もが保育所に入れる状態とは言えず、自由記述欄には『待機児童ゼロ』と公表した市への憤りも書かれていました」
 たとえ保留児童が0人になったとしても、「職場の壁」と「家庭の壁」が残る。前田さんは「子どもが風邪をひいたら迎えに行くなど、母親が家事や育児をやることになっているから職場で十分に能力を発揮できない。父親は長時間労働が当たり前の社会で仕事をせざるを得ない」と指摘。自由記述欄には男性の育児参加を法律や規定で強制しなければ社会は変わらないという声もあった。
 10月には埼玉県議会で子どもだけでの留守番などを虐待と定める条例改正案が、子育て中の母親らの批判を受け撤回された。前田さんは「子どもをつくらないか、祖母が子育てを丸抱えできる人しか生き残れない社会に向かってはいけない。母親が『もう1人産みたい』と思えるよう、家庭も職場も壁を壊さなければいけません」と強調した。