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既成事実重ね押し切る 抗議回避へ前倒し 石材投入で着工宣言 大浦湾 埋め立て着手  


既成事実重ね押し切る 抗議回避へ前倒し 石材投入で着工宣言 大浦湾 埋め立て着手   大浦湾側に台船上から重機で投下される石材=10日午後2時31分、名護市(ジャン松元撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古の新基地建設に向け、大浦湾に石材が投下された。岸田文雄首相は沖縄に対して「これからも丁寧な説明を続けていきたい」と述べたが、玉城デニー知事は県との事前協議が調っていない中での着手に対して「極めて乱暴で粗雑な対応」と強く反発した。県と政府の隔たりはかつてないほど深く、意思疎通さえ難しい現状が浮き彫りとなった。
  (1面に関連)
 名護市辺野古の新基地建設で沖縄防衛局は10日、大浦湾側への石材投入に着手した。「前倒しもあり得る」と国の姿勢に疑念をもちつつも12日の投入を念頭にしていた県側は、即日埋め立て中止を求めるなど対応に追われた。事前協議やサンゴ移植などがないままの強行に県関係者は「米国におもねり、高裁判決で付言されたはずの対話すらせず沖縄を切り捨てた」と怒気をにじませた。
 「沖縄の苦難の歴史に一層の苦難を加える辺野古新基地建設を直ちに中止すべきだ」
 玉城デニー知事は10日夕、記者団の取材に応じて緊張感の漂う声でこう訴えかけた。

セレモニー

 国土交通相による代執行で設計変更申請の承認を得た防衛省は当初、12日の工事着手に向けて調整を進めていた。だが、同日着手との報道が先行し、その日には辺野古の米軍キャンプ・シュワブゲート前での大規模な抗議集会のほか、海上などでの阻止行動も強まることが予想された。
 このため、政府は埋め立ての前倒しを画策した。着工日は直前まで「秘匿扱い」(防衛省関係者)とされた。前倒しで石材を投入することで、大浦湾側に着工したと宣言し、機先を制することを狙った「セレモニー」(政府関係者)と位置付け、「着工」の効果の最大化を狙った。
 県側は10日午前、防衛局が着手するとの情報を入手すると、防衛局側に問い合わせるなどの対応に追われた。投入予定日を12日とにらみ、その前に事前協議について国に申し入れるべく、庁内での調整を10日中に終える予定だったが「不意打ちを食らった」(県関係者)形だ。
 玉城知事は「畳みかけるように工事を進めることで、諦め感を出そうという考えがあるなら大きな間違いだ」と厳しく批判。県民が繰り返し示してきた辺野古移設反対の民意を軽んじれば「日米安保体制にも大きな影響が及び続ける」と指摘した。

底なし沼

 県幹部の一人は「9日の汚濁防止膜の設置も、石材投入も、本体ではなく仮設のもの。9日でも着手と言えたのではないか」と述べ、着工を声高に宣言する政府の思惑を見透かした。
 今回着手した部分の事前協議の必要性については、国と県の間で認識の違いもある。県関係者の一人は「事前協議の対象になるかどうかも含めて、互いに意見を出し合い整理するのが県のスタンスだ」と語り、「協議は不要」だと性急に結論付けようとする国に待ったをかける。
 ただ、防衛局は海上ヤード以外にも複数の護岸などの工事について入札を済ませており、この日を境目に工事を加速させる構えだ。
 県政与党幹部は「民意を押さえ込む意図が見え見えだが、この強行こそ、国の焦りの現れだ」とけん制した。
 軟弱地盤の工事に伴い、工期、工費ともに大幅に増加している。「これからも膨らみ続けるだろう。軟弱地盤という海底深くの『底なし沼』に税金をじゃぶじゃぶ沈めているようなものだ。この責任は、県が反対しても代執行で強行した国が負わなければならない」と断じた。
(知念征尚、明真南斗、佐野真慈)