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<表層深層>山間地、用地確保が課題 入居の遅れ、長期化も懸念


<表層深層>山間地、用地確保が課題 入居の遅れ、長期化も懸念 石川県輪島市で始まった仮設住宅の工事=12日午前
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 能登半島地震の石川県の被災地で応急仮設住宅の建設工事が始まった。山間部が多いため用地確保は難しく、十分な戸数を整備できるかどうかは不透明だ。東日本大震災で、整備の遅れや入居の長期化が問題となったこともあり、賃貸住宅を借り上げる「みなし仮設」も選択肢となっている。専門家は、コミュニティーの維持などへの配慮を求めている。

見通し立たず

 12日午前に仮設住宅の入居申し込みが始まった輪島市役所。多くの被災者が早朝から手続きに訪れた。同市の山下とも子さん(68)は「暮らした集落を離れたくはない」としつつも「欲張りは言えない。仮設住宅なら安心できる」と喜んだ。同市の畠中陽一さん(66)は輪島朝市で開いていた古民家ギャラリーが全焼。「店を再建するために近くに住みたい」と将来を見据えた。
 県は今回着工した輪島、珠洲両市の4カ所計115戸に加え、能登、穴水両町で計60戸を建設する方針。しかし、馳浩知事は12日、両市の建設地4カ所のうち3カ所が津波の浸水想定区域に該当すると明らかにするなど不安を残す。
 山間地で建設候補地となる空き地は限られており、避難者が2万2千人を超える中、十分な数を建設できる見通しは立っていない。

長期化

 応急仮設住宅は、災害救助法に基づき、被災者が住まいを確保するまで自治体が無償提供する。2011年の東日本大震災では、整備の難航や入居の長期化など、多くの課題があらわになった。 仮設住宅の入居期間は原則2年。しかし宅地造成の遅れなどで、入居は長期化した。岩手県陸前高田市ですし店を営む阿部和明さん(69)は震災翌年から6年あまり仮設暮らしが続いた。壁が薄く、隣に音が漏れないよう、風呂場でカップラーメンを食べたり、布団をかぶって会話したりした。「退去するまで周囲に気を使いながら生活していた」と振り返った。
 環境が変わったことで近所づきあいが少なくなり、仮設住宅での孤独死も問題となった。

コミュニティー

 こうした反省を踏まえ、18年の西日本豪雨などの大規模災害ではみなし仮設が主流になりつつある。能登半島地震でも一部自治体では受け付けが既に始まっている。
 ただ、みなし仮設に入居した人は各地に分散するため、自治体や支援団体が現況を把握しづらいという問題もある。
 東日本大震災の被災者支援に当たったみやぎ震災復興研究センターの遠州尋美事務局長は「本人が声を上げない限り支援が行き届かない」と指摘。都市部の賃貸住宅に入った若い世代などが、地元に戻らないケースもあり得るという。
 仮設住宅に詳しい専修大の佐藤慶一教授(都市防災)は「近所の人と同じ仮設住宅に入居できるようにするなど、コミュニティー維持も意識しなければならない」と強調。一刻も早く住み慣れた土地に戻れるように、国や県は復興のまちづくりも急ぐ必要があると訴えた。