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睡眠時無呼吸に電気刺激/新治療、体内に機器埋め込み/マスク装着不要に


睡眠時無呼吸に電気刺激/新治療、体内に機器埋め込み/マスク装着不要に 舌下神経刺激療法の実施医療機関
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 就寝時に気道が狭くなり呼吸が止まったり、浅くなったりする閉塞(へいそく)性睡眠時無呼吸(OSA)。治療に悩む人が多い中、体に埋め込む機器が出す電気信号で呼吸を維持する舌下神経刺激療法(HNS)という新たな治療法が注目されている。
 舌の根元や軟口蓋(なんこうがい)が落ち込み気道が狭くなって起きるOSA。就寝中は無呼吸や低呼吸、いびき、日中は居眠りや集中力低下などが起きる。

決め手欠く治療

 無呼吸の間は血圧が上がり、心臓や肺、血管に負担がかかる。順天堂大順天堂医院の葛西隆敏睡眠・呼吸障害センター長は「放置すると高血圧や心疾患、糖尿病に進み、命にも関わる」と語る。
 ただ「これという治療薬はなく、手術も今ではほぼ行われない。減量は有効だが、痩せた患者もいる」と葛西さん。重症例では機械で空気を鼻に送り込むシーパップ(CPAP)が頼りだが、使用時の違和感やマスク装着の手間で断念し、放置してしまう人が多い。

10年前に登場

 HNSはデバイスをペースメーカーのように鎖骨近くに埋め込む。2本のリード線の1本を肋間(ろっかん)筋で呼吸の動きを検知するセンサーに、1本は舌を動かす顎の舌下神経の刺激端子につなげる。
 息を吸うタイミングで本体から電気信号を流し、舌根の落下を防ぐ。リモコンで電源をオンオフでき、電池寿命は約11年。煩わしいマスクや長いホースは不要になる。
 2014年に米食品医薬品局(FDA)が承認、今では世界15カ国で約5万人が使うという。日本では21年6月に保険適用され、翌年2月に栃木県の独協医大病院で第1例が行われた。昨年9月末現在の全国の治療数は17例で治療を待つ患者も複数いるという。
 治療対象は18歳以上で体格指数(BMI)30未満、CPAP困難などの条件がある。繊細な技術が要る下顎部の手術を伴うため、実施施設は9月末現在、全国8施設に限られるが、順次増える。

見極めが大切

 奈良県立医大で手術を担当する上村裕和病院教授(耳鼻咽喉・頭頸部外科)は「患者満足度も高く、治療数は増えていく」と話す。ただ全員に効くわけではなく、同大の山内基雄教授(臨床病態医学)は「事前の見極めが大切になる」とする。
 まず薬で眠らせ内視鏡で気道の状況を調べるDISE検査が必須で「気道全周が収縮するような複雑な閉じ方をする人には効果が低い」(上村さん)。山内さんによると、この検査は約8割が合格するが、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)の結果も加え、患者をさらに絞る。例えば電気刺激で目覚めやすい人や呼吸が元々不安定な人は効果が低いという。
 手術の傷の回復後に電源を入れ、舌が最適位置へ動く電圧を探る。後日、PSGを行い刺激電圧を決める。
 9月までに5人を治療した順天堂大には全国から問い合わせがあるという。葛西さんは「CPAPより効き目は少し落ちるが、少なくとも重症が軽症になる改善は望める。これまで治療を諦めていた患者には福音になる」と評価している。