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組踊「屋慶名大主敵討」公演/国立劇場/「三井寺」で能とつながる


組踊「屋慶名大主敵討」公演/国立劇場/「三井寺」で能とつながる 歌三線の仲村逸夫が歌う謡曲「三井寺」が流れる、船頭(嘉数道彦)が登場する場面
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 国立劇場おきなわの組踊公演「屋慶名大主敵討」が12月9日、浦添市の同劇場であった。同劇場では2008年以来の上演。物語の途中に能楽「三井寺」の謡曲が登場する作品だが、今回は琉球古典音楽家の仲村逸夫が歌った。琉球古典音楽の中で違和感なく響く「三井寺」が、組踊と能をシームレスにつないだ。
 立方指導は眞境名律弘、地謡指導は比嘉康春、謡曲指導は清水寛二。
 屋慶名大主(宇座仁一)は、饒辺大主(平田智之)の妻をわがものにしようと、饒辺大主を討ち取る。求婚を拒んだ饒辺大主の妻(宮城茂雄)は、捕らえられてしまう。饒辺大主の子、亀千代(堀川裕貴)は、臣下らと共に屋慶名大主を討ち、母を取り戻す。
 屋慶名大主が饒辺大主の妻をめとろうと口説く場面では、怒りを内に込め、凜とした美しさを保った宮城の演技が光った。屋慶名大主たちをおびき寄せるため、饒辺一同が浜に繰り出す前に船頭(嘉数道彦)が登場。月夜に仲村逸夫が歌う「三井寺」を背に1人船をこぎ出す場面は、時が止まったような不思議な美しさを感じた。「三井寺」は親子の別れを描いた能楽作品。敵討ちと親子の絆、組踊と能、という異なる二つの空間や物語をつなぐ、大事な間であるように感じた。ただ、今回も通常の組踊の舞台と同様、地謡が紅型幕の後ろにいるため、その歌う姿が見えないことが残念だった。
 ラストシーンは、踊り手が優雅に踊る中に亀千代も交じると、一気にあだ討ちに展開し、母を救い出す。堀川の演技はみずみずしさがあったが、脇を固めた立方の存在感が大きかった。
 立方はこのほか、玉城匠、上原崇弘、親泊久玄、比嘉克之、下地心一郎、玉城慶、山崎啓貴、佐喜眞一輝、宮里光也、仲村圭央、高井賢太郎、伊波心。地謡は、歌三線が仲村逸夫、喜納吏一、棚原健太、箏が池間北斗、笛が横目大哉、胡弓が森田夏子、太鼓が久志大樹。 (田吹遥子)