適当に初恋を済ませたくらいの年の頃に映画館で鑑賞し、生まれて初めて映画の美しさに圧倒され「感動」という言葉では解決できない、とても複雑で、熱い涙を流したことを、すごくよく覚えている。ちょっと前に経験した、痛くも痒(かゆ)くもなかった初恋の記憶が消滅し、レスリー・チャン演じるティエイーの、慎み深いけれど激しい恋心の、あまりの報われなさに心をかき乱され、「こんな恋をしなければ」という熱い思いが全身を駆け巡った。
あれから30年。文化大革命くらいの恋の障壁があれば私ももっとこの恋で傷つけたはずだとか、京劇の世界は特別だから「レスリー・チャンにはかなわない」などと、理想通りにいかない恋に言い訳しながら、それでもあの日体を熱くした憧れだけは消えることがない。
「幸せになりたい」。その切なる願いがはかなくも打ち砕かれるからこそ、レスリー・チャンはあんなにも悲しく美しい。だから私も願う。シワよ増えるな! 監督はチェン・カイコー。(桜坂劇場・下地久美子)
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さらば、わが愛/覇王別姫 4K/桜坂劇場で公開中/慎み深く激しい恋心
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琉球新報朝刊
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