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DX介護で離職率大幅減 IT機器活用、職員負担軽減


DX介護で離職率大幅減 IT機器活用、職員負担軽減 福祉用具を使って車いすやベッドへの移動を行う「ノーリフティングケア」を体験する視察団=2023年11月、大分市
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 全国的に介護分野の離職率が高止まりする中、人手不足を乗り切ろうと、大分県の社会福祉法人がIT機器を活用した業務改革に奮闘している。介護の質を保ちつつ、職員の業務負担を削減。離職率は全国平均を大幅に下回り、医療デジタルトランスフォーメーション(DX)のモデルケースとして注目を浴びる。ただ機器の導入コストなど課題もある。

大分の福祉法人 人出不足対応
 「記録。排せつ、洗浄し、交換を行う。送信」。昨年11月下旬、社会福祉法人「大翔会」(大分市)が2015年に設立した特別養護老人ホームで、職員が、おむつ交換の記録方法を視察団に説明していた。

残業ゼロ
 施設は電子媒体に全記録を保存。職員が利用者のケア記録を読み上げると、自動入力される。手書きやキーボードで打ち込んでいた作業が省け、記録のための残業はゼロになった。
 職員同士はマイク付きヘッドホンで連絡を取り合い、電話連絡の手間を省く。ベッドのセンサーは利用者の心拍数などを計測、職員が別室で睡眠状態を把握できるため、夜間の不要な見回りを減らせる。心拍数や呼吸などに異常を感知すると、警戒アラートが職員に届く仕組みもある。
 視察に訪れた東南アジア諸国連合(ASEAN)各国の高級官僚は感嘆した様子で、タイの労働省職員の男性(35)は「先進的な取り組みに驚かされた。自分の国でも導入できたら」と話した。

離職率3・8%
 従来のように人力で利用者を抱きかかえず、電動リフトなど福祉用具を使って車いすやベッドへの移動を行う「ノーリフティングケア」も導入。
 他の介護施設から同施設に移った姫野裕介護主任(38)は「前の職場は一日に20人以上抱えることもあり、腰痛に悩まされていた。今は全くない」と話した。リフトを使えば、利用者と目線を合わせて雑談する余裕も生まれるという。
 公益財団法人「介護労働安定センター」の調査では、22年度の介護職員の全国平均離職率は14・9%だった。一方、大翔会によると、同老人ホーム職員の離職率は3・8%にとどまった。
 厚生労働省の調査によると、居住・宿泊型施設の大半が介護ロボット導入の必要性を感じているとみられる。ただ初期費用が高く、多くが二の足を踏んでいる。センサーなど高価な福祉機器は1台1500万円する場合もある。
 大翔会の渡辺利章理事長は、職員の労働環境が良くなれば、サービス水準が向上、利用者の満足度も上がると主張。「3Kとされる職場環境を変え、やりがいをもって働ける業界にしたい」と語った。