強い母親という存在は、高い確率でその内側に深い悲しみと怒りをはらむ。
1955年のシカゴ。一人息子をミシシッピ州の親戚宅へ送り出す際の母親の注意はくどいほどに繰り返された。「シカゴとは違う。白人と関わらないで」と。
実話を基にしているから、やんちゃな息子がやがてどうなるかは知っている。それでも「そんな些細(ささい)なことで子供が殺されるのか」とその時代の白人社会の歪(いびつ)さに息をのむ。少年の未来を奪っても、誰一人裁かれず、誰一人ざんげする気もない。
犯人の高笑いは、それを許す社会の後ろ盾があっての事だと思うと全身が凍りつく。変わり果てて戻ってきた息子を前に、母親は決意する。なかったことには決してしないと。彼女のとった行動は賛否を生むが、泣き寝入りせず行動を起こしたことが後の社会を動かし変えていく。母親メイミー・ティルの慟哭(どうこく)は、私の中の怒りのドアをずっとノックし続けている。監督はシノニエ・チュクウ。(スターシアターズ・榮慶子)
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ティル シネマパレットで公開中/社会を動かした母親
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琉球新報朝刊
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