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「短髪」理由に女性を暴行/韓国、男女の対立深刻化/憎悪犯罪に反発 連帯も


「短髪」理由に女性を暴行/韓国、男女の対立深刻化/憎悪犯罪に反発 連帯も 女性への暴力防止などに関する予算を削減した韓国の尹錫悦政権に反対の声を上げる人々=2023年11月21日、ソウルの国会前(聯合=共同)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 韓国で昨年11月、髪形がショートヘアという理由で女性が知らない男に暴行される事件が起きた。男の動機は「フェミニストだと思ったから」。韓国では男女対立が深刻化しており、危機感を覚えた女性らが髪を短くした写真を交流サイト(SNS)に投稿し連帯を示す運動に乗り出した。検察は憎悪犯罪(ヘイトクライム)は分断を助長するとして、厳しく対応する方針だ。

フェミニストに偏見

 「女の髪が、なぜ短いんだ」。11月4日未明、南東部晋州のコンビニ。ドアを蹴って入ってきた男(24)が20代の女性店員の髪形に文句を付け、顔や腹を殴った。助けに入った50代の男性客も骨折の重傷を負った。
 傷害罪などで起訴された男は、犯行中に「フェミニストは殴ってもいい」と発言していたことが判明。髪の短い女性はフェミニストで、女性優位をうたい男性を嫌う存在との偏見を持っていたとされる。
 女性は韓国紙の取材に、自分に似合うと思って髪を短くしていただけだったと話した。フェミニストだとしても暴力を受ける理由はなく「髪を伸ばして解決できる問題ではない」と訴えた。

「英雄」も標的

 過去には国民的英雄も標的にされた。2021年の東京五輪アーチェリー女子で3冠に輝いた安山(アンサン)選手だ。韓国初の偉業だったが、髪が短いことを理由にインターネット上で「フェミだ」「メダルを返せ」などと中傷が相次いだ。反発した女性らは、自身のショートヘア姿の写真をSNSに投稿するキャンペーンを展開。今回の事件後、再び運動が広がった。
 昌原大の尹金芝英(ユンキムジヨン)教授は、根強い家父長制から「男性が好むスタイルにしない女性は、フェミニストで問題だと考える人がいる」と指摘する。男女平等が進み、就職などで特権を得られなくなったことに不満を持つ一部の若い男性が「フェミニストを排除すれば不幸を解消できると考えた」と事件の背景を分析した。

予算削減

 「二極化が深まり憎悪犯罪が横行しては、共同体の土台が崩壊する」。李沅〓(イウォンソク)検察総長は11月28日、女性への偏見に基づく犯罪には厳正対処する姿勢を示した。
 一方、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は昨年の大統領選で反フェミニズム公約を掲げ若い男性票を取り込み、接戦を制した。選挙で男女対立が先鋭化した上、政権は女性に対する暴力防止に関する来年度予算を削減。反発の声は膨らむ。
 日本でも出版された小説「僕の狂ったフェミ彼女」の作者ミン・ジヒョンさんは「競争が激しく若者が生きにくい社会の構造的な問題を解決しない限り、分断の修復は難しい」と語った。
 (ソウル共同=渡辺夏目)