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乳房再建ためらわないで/前向きに生きるための治療/保険適用され日帰りも


乳房再建ためらわないで/前向きに生きるための治療/保険適用され日帰りも 乳房再建に使うエキスパンダー(左)とシリコーンを手にしたブレストサージャリークリニックの岩平佳子院長
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 がん治療で損なう外見に対処するアピアランスケアが重視されだした。ただ乳がんで乳房を切除しても再建手術を受ける女性は少ない。保険が効くと知らなかったり、周りに遠慮したりと、原因はさまざまだという。

時代は変わった

 日本も乳がん罹患(りかん)率は増え、50年前は50人に1人だった生涯に乳がんになる女性は今では9人に1人。年間10万人近くが発症し、40~60代の子育て、就労世代に多い。
 一方、治療成績の向上で多くが社会復帰するようになった。がん研有明病院乳腺外科の片岡明美医長は「そうなると治療後の長い社会生活の充実が必要。もう『治ったから胸がなくなってもしょうがない』という時代ではない」と語る。
 だが患者支援団体などが最近、乳がん患者208人に行った調査では79・5%が乳房再建を知っていたが、再建したのは9・2%にとどまった。
 片岡さんが治療した女性(49)は、会社に「乳房再建で休む」と言えず、新型コロナ流行でのリモートワークを機に、病室にパソコンを持ち込み仕事をしつつ、ようやく手術を受けたという。
 形成外科医として1980年代から乳房再建に携わるブレストサージャリークリニック(東京・高輪)の岩平佳子院長。他施設で既に切除した患者が全国から集まり、開業後の20年間だけでも6千人以上の乳房を作った。再建後の修正にも対応し、岩平さんは「前向きに生きるための治療の一環」と話す。

91歳で手術も

 再建は自分の腹や背中の組織を使って始まり、2013年には人工物シリコーンの使用も保険適用となったが、その事実を知らない人も多い。また高齢になると「私が再建を望んでもいいのか」と遠慮しがちだ。
 岩平さんの治療最高齢は91歳。乳がん手術から既に16年たっていたが「温泉に行きたい」と再建に踏み切った。「摘出から何年たっても再建は基本的に可能で、保険も使える」と岩平さん。
 自家組織を使うと血の通う温かい乳房になるが、手術箇所が複数になり入院が必要。人工物ではやや冷たく硬いと感じる人もいるが、体の負担は少なく、日帰り手術も可能と一長一短がある。
 人工物を使う場合、岩平さんは患者の仕事や通院距離を考え、日帰りを原則とする。まずエキスパンダーと呼ぶシリコーンの袋を埋め、定期的に生理食塩水を注入。縮んだ皮膚を伸ばしながら膨らませ、反対の乳房とバランスが取れたら再手術で取り出し、シリコーンパックと入れ替える。
 2回の手術はともに30分ほどで、費用は3割負担で合計約20万円。乳頭再建も保険でできる。入院が必要な自家組織再建は少し高くなり、バランスを取るための反対側の乳房の縮小やつり上げ手術は自費になる。
 乳房摘出の跡を「がんに勝った印」と前向きに捉えられる人もいるが、徐々に再建への思いを募らせる人も多い。有明病院では術後の定期検診の都度、意向を再確認するという。片岡さんは「社会も再建の認知度を高め、女性の気持ちに寄り添って」と訴えている。
 再建を相談できる施設は患者支援サイト「乳房再建ナビ」で探せる。