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尊い命に「おかえり」と 元牧師の 松原宏樹さん 障がい児を温かな家庭へ


尊い命に「おかえり」と 元牧師の 松原宏樹さん 障がい児を温かな家庭へ 松原宏樹さん(右)に抱かれて喜ぶやまとくん
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 「おかえり」「ただいま」。こんなやりとりすらできず、失われていく尊い命がある。元牧師の松原宏樹さんは、障害が原因で実の親に養育を放棄された新生児を別の温かな家庭につなぐ取り組みをしている。自身も障害児2人を養子にしており、これまでの経緯を「小さな命の帰る家」(燦葉(さんよう)出版社)にまとめた。
 「日本の特別養子縁組では現状、障害児を受け入れる養育候補者はほとんどいない。一番か弱い存在にしわ寄せが行く社会を変えるには、僕が先を走らないと道が開けないと考えました」
 母子家庭の一人っ子で育った松原さんは食事も用意してもらえず、次第に非行に走った。「当時は、存在していていい、生きていていいと誰かに言ってほしかった」。クリスチャンとなった後、ホームレスなど居場所がない人々の支援活動に従事。その日々の中で、行き場のない、障害がある新生児の存在を知った。
 やまとくん。5歳。2019年に松原さんの養子となった。誕生前にダウン症と心臓の疾患が判明し、実母から相談の電話があったことがきっかけだ。「実母は本当に子どもを楽しみにし、母子手帳にびっしりとわが子への思いをつづっていましたが、診断を境に真っ白になっていました。『産んでも育てられない、線路に飛び込んでしまいそう』と伝えられました」。出産後に実の両親が心臓手術の同意書にサインせず、命の危険があったため、こう説得したという。「やまとくんは僕が育てます。とにかくサインしてください」
 「助けてくれる人がいない。それが、障害がある子どもとその親の現実です」
 松原さんの元には毎年40~50件の相談電話があり、昨年、団体として「小さな命の帰る家」を設立。障害児とその親が少しでも生きやすい社会にしたいと、重度の障害がある子どもの居場所となるデイサービスの立ち上げを準備している。ただ、1人でできることには限界がある。「養育候補者をもっと探さないといけません。子どもたちの現状を講演会で訴えると共感してくださる方は少なくなく、潜在的な希望者はいると思っています。残りの人生をささげ子どもたちの命を救いたいです」