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脳死判定、累計1000件超/情報発信、体制整備が課題/韓国は日本の9倍


脳死判定、累計1000件超/情報発信、体制整備が課題/韓国は日本の9倍 全国移植者スポーツ大会で立ち幅跳びの記録を競う参加者たち=昨年10月28日、堺市南区
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 臓器移植法に基づく臓器提供のための脳死判定が累計で千例を超えた。1997年10月の同法施行から26年がたち、昨年は提供が100件を超え過去最多に。提供者(ドナー)とその家族の思いに応える移植医療を進める上では、情報発信や医療体制の整備が依然として課題となっている。

スポーツも仕事も

 昨年10月末、堺市南区で全国移植者スポーツ大会があった。臓器や骨髄の移植を受けた人たちがドナーとその家族に感謝の気持ちを伝え、自らの健康を実感するイベントだ。
 今年で29回目。新型コロナウイルス流行の影響で開催は4年ぶり。主催したNPO法人日本移植者スポーツ協会(大阪市北区)の戸塚仁理事長は「開いていいのか戸惑いもありました」と話す。
 水泳など参加者が多い競技を取りやめ、参加者は2日間で約40人とコロナ禍前の約3分の1に。子どもから大人まで短距離走や立ち幅跳び、卓球、バドミントンといった競技を楽しんだ。
 「移植を受けて健康を取り戻せばスポーツもでき、働くこともできる。移植医療を多くの人にもっと知ってもらいたい」

回復度高い移植

 「末期腎不全のベストの治療は腎臓移植であることを知らない医療者が日本ではまだまだ多いのではないか」。丸井祐二聖マリアンナ医科大教授(腎泌尿器外科)はそう指摘する。
 丸井さんによると、末期腎不全の目安は、日本では腎機能の検査値である推算糸球体ろ過量(eGFR)が10以下。一方、海外では先進国を中心に30を切ると「可能なら移植を受けた方が良い」と勧められるという。「人工透析では腎機能の回復は10~20%。移植では30%以上の回復が見込め、長生きにもつながる」
 ただ、提供数は移植希望者数に比べるとかなり少ない。日本臓器移植ネットワーク(JOT)に登録する移植希望者のうち腎臓は1万4千人前後と最も多い。だが、2022年度に移植を受けたのは215人だった。
 「他の国に比べて日本社会が博愛精神に乏しいとは思わない。提供が増えないのは、移植医療の情報に触れる機会があまりにも少ないからでは」

移植内科医育成を

 提供が増えないのは「仕組み」にも問題があるから、とJOTの理事を務める布田伸一東京女子医科大特任教授は言う。
 脳死を判定できる医師がいるなど提供に対応できる病院は全国に約900施設ある。しかし、JOTが21年に実施した調査では、約半数が「体制が整っていない」と回答した。「体制が整っている施設もほとんどは1例しか提供経験がない」
 布田さんによると、韓国では脳死になりそうな人が現れた場合、日本よりも早い段階で移植コーディネーターが家族への支援の一環として臓器提供の情報を提供する仕組みがあり、人口100万人当たりの提供数が日本の9倍という数字につながっているという。
 移植後の診療を受け持つ「移植内科医」の育成も課題だ。日本では移植外科医が診療に当たることが多い。「だが、本来は内科の専門領域。心臓については移植内科医が担う体制の整備が少しずつ進んでいる。他の臓器では移植内科医をもっと増やす必要がある」と布田さんは訴える。

【写真説明】全国移植者スポーツ大会で立ち幅跳びの記録を競う参加者たち=昨年10月28日、堺市南区