有料

地球とつながる豊かな営み 料理は「命と関わる文化」


地球とつながる豊かな営み 料理は「命と関わる文化」 「(その土地の食文化から逸脱すると)人間の健康や自然に犠牲が生じる」と話す土井善晴さん
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 普段の食事はおわんによそったご飯と具だくさんのみそ汁、そこに少しの漬物があれば十分―。著書「一汁一菜でよいという提案」で、多くの人々を食事作りの呪縛から救った料理研究家・土井善晴さん。飾らない和食に豊かさを見いだしたベストセラーから7年。土井さんは今「家庭料理が地球とつながる大切さ」に思いを傾ける。

料理研究家・土井善晴さん 
 地球とは人が暮らす大地であり、古来人の営みとともに食文化を育んできた風土そのもの。地物の素材をなるべく手を加えずに味わうことが人の健康や感性を養い、自然環境への負荷も抑えられると考えるからだ。
 原点には、30代で出合った民芸の思想がある。当時は修業を経て、家庭料理研究で知られた父・勝さんの料理学校に戻ったばかり。それまではフランス料理や和食の一流の店で腕を磨いてきただけに「家庭料理みたいな土着のもんの中に何があるのか」と思い悩む日々が続いていた。
 そんなときに訪れたのが、京都市の河井寛次郎記念館だった。生活の細部に見いだされた美の数々。「地球とつながり、自然と向き合った道筋の中に美しいものがある」と感銘を受け、「家庭料理も民芸である」と気づかされた。
 新著のエッセー集「味つけはせんでええんです」(ミシマ社)でも、料理を入り口に世の中を縦横無尽に見つめた。ミシマ社が年2回発刊する雑誌「ちゃぶ台」につづった連載を書籍化したもので、テーマは人工知能(AI)から脳科学、郷土史に見つけた「お百姓さん」の言葉、数学者の思想まで多岐にわたる。
 効率やおいしさに支配される社会への警鐘も臆せず記した。「食はビジネスのコンテンツではなく文化」と断言したのは、料理研究家として「食を扱うのは人の命や成長に関わること」という責任感ゆえだ。
 最近は食事においても必要な栄養素を効率よく摂取するなど「タイパ」(タイムパフォーマンス)が注目されるが「成分だけで人間の複雑性は養われず、私たちの幸せは自然と解け合う時の中にある」と指摘。電子レンジにかければ短時間で済むが「芋の時間に合わせて煮れば、芋から気持ちよさを感じることができるし、必ずおいしく仕上がる」。素材との対話に作る楽しみがあると笑い「(過程を軽視し)結果ばかり言うんやったら、生きること自体が揺らいでしまう」とも。
 和食文化の根底にあるという「なにもしないことを善とする」思想を込めたタイトルは、現代を生きる人々へのエールでもある。「自然とつながり、つたなくても一生懸命料理をする。それが自分を豊かにし、守ってくれると思います」